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横浜事変-the mixing black&white-
殺し屋の日常はありふれていて、人間臭いものである(前)
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れを改めて身に染みたケンジが僅かに顔を曇らせたところで、赤島が遠い目で呟いた。

 「俺は人を殺す事を生業にする人でなしだ。捌きは受ける。俺の命でな」

 やがて彼らは行きと同じ延平門の下を通り、JR桜木町駅前にまでやって来た。ケンジはここから横浜方面の電車に乗るが、赤島達は適当に歩いて時間を潰すらしい。

 「なあお前ら、たまには東京にでも行ってみね?」

 「何しに行くんすか?ナンパすか?」

 「赤島さん、歳を考えて」

 「俺はナンパなんて言ってねえよ。ああでも、下北沢か渋谷辺り行きゃ可愛い子いるか?」

 「赤島さんやっぱり興味津々じゃないすか!」

 「私、早く帰って寝ようかしら」

 主体性のない会話を聞きながらケンジは思う。これが彼らの休みの使い方なのだと。他の人には分からない独特の感触を常に味わいながら彼らは生活している。

精神面ではかなりやられている筈だ。八幡や狩屋という仲間が死に、赤島と宮条本人は実際に怪我を負っている。『朱華飯店』で赤島はチャーハンを頼んでいた。きっと蓮華なら利き手ではない左手を使って食する事が出来るからだろう。しかし、少しだけ血が滲んだ包帯はとても痛々しいものだった。

 「皆さんは」

 そのときケンジは無意識に言葉を放っていた。人の喧騒が絶えない駅前付近で、三人の殺し屋がこちらに顔を向けている。そんな彼らの顔から目を逸らさずに、彼らから逃げないように、ケンジは胸の内に膨らむ疑問を吐き出した。

 「皆さんはどうしてそこまでして戦い続けるんですか?」

 たったそれだけ。どうしても腑に落ちないが故に口から漏れ出した言葉。しかしケンジにとって、この質問の答えは重要だった。

 『殺し屋の電話番号』をきっかけに知った横浜の裏世界。そこは血と硝煙と殺意が立ち込める理性を越えた場所。復讐という陳腐な理由で世界を歩くケンジには、彼らの行動原理が謎めいたままだった。彼らはここにいなくとも生きていけるだけのコミュニケーション能力と『個』を持っている。だからこそ、理解出来ない。

 ケンジの真剣な問いに、赤島は肩を(すく)めて答える。

 「殺し屋ってのはなりたくてなるもんじゃない。お前みたいに復讐から世界に入って来た奴もいれば、一般社会から弾かれた奴もいる。現実で失敗して絶望した奴だってもちろんいる。だがな」

 無精髭を生やした殺し屋は珍しく意志の籠もった声でケンジに言葉を突きつけた。

 「俺らは今、この世界で生きてるんだ。人を殺して生きるってのもイカれた話だが、俺らには重要な事だ」

 「……!」

 「他の奴の事は知らんが、少なくとも俺は俺の命で代償を払う。ちっぽけなもんかもしれねえけど、それまでは生きてやるさ」

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