第5話
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「慎重にな。 奴はまだ若い」
と真顔でヴィンセンスに向かって言い、ヴィンセンスは黙って頷いて
ヨシオカの部屋をあとにした。
この翌日からゲオルグはヴィンセンスによるマンツーマンでの訓練を受け始めた。
まず最初はひたすら犯罪で亡くなった犠牲者の現場写真を見せられ続け、
自分が相手にしている連中がどういうことをやってきた人間なのかを理解させ、
同時に惨たらしい死体の映像に慣れさせられた。
続いて情報部が所有する室内戦専用の戦闘シミュレータでの訓練である。
このシミュレータは人体を正確無比に再現できるもので、その見た目はおろか
アームドデバイスで切りつけるときの感触までも再現する。
このシミュレータでゲオルグはひたすら人を殺す訓練を繰り返したのである。
始めはただ突っ立っている人を模したターゲットを切りつけることで
人体を切り裂く感触に慣れる訓練。
それから動く人間を斬る訓練、反撃してくる人間を斬る訓練と続き、
最後の実際の任務に即した訓練に入るころには、ゲオルグは任務中の
己の感情をコントロールする術を身につけていた。
それは、徹底して自分の感情を殺すことで何事に対しても無感動になるという
方法であった。
こうして、人を殺しても眉ひとつ動かすことのない、冷徹無比な軍人という
ゲオルグのもう一つの人格が誕生した。
とはいえ、普段のゲオルグと任務中のゲオルグは性格こそ大きく違うものの
当然ながら一人の人間である以上記憶は継続する。
だからこそ当初は任務から帰るたびに任務中のことを忘れようと
自室に戻ると酒を浴びるように飲んでいたものだが、
1年経ち、2年経ち、3佐に昇進するころにはすっかり慣れてしまったのか
任務のたびに酒を飲んで眠るということはなくなった。
しかし、今日のように日常モードのときに不意打ちのように任務モードに入ることを
要求されるようなことがあると、普段貯め込んでいたものがあふれだすのか
酒を飲まずにはいられなくなってしまうゲオルグであった。
自室に戻ってから2時間あまり。
暗い部屋の中でつまみも食べずにウィスキーをちびちびと飲み続けていたゲオルグは
アルコールによって濁った目線を虚空に向けて吐息を吐きだした。
ソファの隣にあるテーブルに置かれたグラスに手を伸ばし口元に運んだところで
中身がないことに気づき、同じくテーブルの上に置かれたボトルを手に取り、
覚束ない手付きでグラスに注ごうとする。
だが、ボトルから一向にウィスキーが出てこないのを見て、ゲオルグは
顔をしかめて舌打ちする。
「ちっ・・・空じゃねえかよ!」
呂律の回っていない口調で荒い声を上げると、ゲオルグはソファの肘かけに
手をついて立ち上がろ
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