後日談の幕開け
二 悪意
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ロッカー、空っぽの。しかし、よくよく確認すれば。目線よりも随分低い棚板、その端。空いた溝に挟まった、一枚の紙……何か、文字の書かれたそれを見つけて。
そっと、抜き取る。随分と古い。丁寧に扱わないと、容易に破れてしまいそうなほど。古びたそれを手に取って。
「……読める?」
「……大丈夫みたい。知っている文字だわ」
背の低いアリスにも見えるよう、腰を屈め。小さな紙、メモ用紙だろうか。片手で持って、読み上げて。
「……当院、研究所の移転……設備、器具類、素体は全て新都へと輸送。地下実験室の封鎖。研究員の私物は各自。2135年」
「……何かのメモ書き?」
「そう、みたい」
当院というのは、この病院か。地下実験室、研究所も兼ねていた? それの、移転。新都――なにか、知っている。生前の私の知る言葉であった気がするも、確信には至らずに。只。
「やっぱり此処は。もう使われていない施設みたいね」
だとすると。態々私たちを、使用していない施設に配置し……アンデッドも恐らく、後から設置して。私たちへと襲い掛かるよう。私たちを故意に危険に晒した。何の理由があるのかなんて知らず。知らずとも、只。
それを。許せるはずも無く。
本当に、何を考えているのか。私たちを作ったそいつは。理由は見えず。只、只、悪意しか。私たちを壊す意思しか見えてこない。私たちの敵で在るようにさえ。いや、実際。
敵なのだろう。既に、こうして。解体されるに至らずとも、怪我を。あの怪物、取り逃がした。そして、小さな異形の群。あれ等をけしかけた。攻撃した。敵意を見せた。その時点で。
一度。問い詰め。痛めつけ。この怒り、鬱憤。心の晴れるまで。いっそ――
「……引き続き、私たちを作った誰かを探しましょう。何としてでも見つけ出さないと」
必ず。絶対に、と。声は。隠そうとしても。彼女達には悟られまいと。常時のそれを装っても。
声は。体は。湧き出す怒気に。姿も知らない製作者への憎しみに。
微かに、震えた。
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