後日談の幕開け
二 悪意
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なかった場所……机やロッカー、扉のついた保管庫。幾らかの器具。他の部屋とは異なり、誰かが使用した痕跡のある部屋。その奥へと、足を踏み入れ。
あたり一面。飛び散った粘菌、肉片。何かの欠片。赤く汚れた部屋、机の上や棚の上。目に見える範囲には目ぼしい物も無く。摘み上げた拉げたメスを隅へと放り。甲高く響くその音を聞きながら、机、その引き出しに手を掛けて、引き。
「……何も、ないわね」
その中には。何一つとして、手掛かりなど無く。本当に使われていたのかさえ怪しむほどに、空っぽの引き出し。机。徹底して、私たちに情報を掴ませないつもりなのか、と。まだ見ぬ製作者を怨み。手付かずの棚。保管庫。手を掛けようとするアリス――
「アリス」
「なに?」
私の呼び掛けに。彼女は、手を止め。
「ちょっと、後ろを向いてて」
言われるまま、彼女は……半ば、私が。彼女と保管庫の間、割り込むように。
保管庫は。見たところ、保冷装置、大きな冷蔵庫と言った風で。この部屋、あの怪物。其処に、保冷庫。嫌でも、中身の予想がつく。
アリスが背後を向いていることを確認し、その戸を開ける。元々、低い気温。その外気よりも更に冷たく。戸の隙間から溢れ出す空気。そして。
「私たちに必要なものは、何もないみたいね」
そう。何もない。何も、この保管庫には入っていない。何も見てはいない、と。
入っていないと。彼女達に告げ。その言葉だけで、顔を顰めるマトと、小さく。嫌悪を含んだ声を上げる、アリス。アリスは気付かないでくれるかとも思ったけれども、この状況では流石に無理か。実際に見るより、言葉で気付いたのならならば、まだ。不意を打たれて気を病むよりもずっと良い。
「……後は、ロッカー……そうね、なにか服でも残ってないかしら」
「……服?」
「あなたのよ。随分汚れてしまったでしょう、さっきので」
訝しげに尋ねるマトへと、言葉を返す。彼女の着ているのは、体に張り付く黒いトップス……最早、インナーに近い。彼女の三つ腕に合わせて作られた。短かな三つの袖、腹部を晒した。履くのは同じく黒のショートパンツ。髪の色もまた黒く、そして、彼女の獣足、その体毛の色もまた。黒尽くめの彼女。幸いと言うべきか、アンデッドの撒き散らした粘菌は、彼女の黒い服を汚しても、目立ちはせず。しかし、目立たないからといって粘菌塗れと言うのも、どうかと。せめて何か、着替えることが出来るものでもあれば、と。
「いや、いい。私はこれで……なんとなく、大切なものな気がする」
「そう? ……と、言っても」
ロッカーを開いたところで。私の望んだ物は、彼女には必要の無いものだったとは言え、其処には無く。中身は、空――
「……やっと。何か見つけたみたい」
開いた
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