後日談の幕開け
二 悪意
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う、言って。
「お願い……離れないで。一人にしないで。一人にならないで。怪我なんかよりも、その方が嫌……」
より。より、強く。握り締める手。滴る赤。構いはしないというように。彼女は、私に歩み寄り。
その目には。涙を溜めて。私も、もう。溢れそうなそれを。留めることなんて。
「お願い……お願い。一緒に居て」
零れ落ちた雫。頬を伝う感覚。握られた手。その言葉は、私の欲した。私の望んだ。一人になりたくない、離れたくない。私が欲しかった言葉と、手。
私の手を握り締める。小さなそれを。胸を締め付けるそれを。私は。私は、私は。
「……分かっ、た。離れない。離れないから……絶対に。絶対に……」
彼女の手。握り返すことも出来ず。出来ないけれども、私は。
空いた片手を、その手に重ね。伏せた顔、零れ落ちる涙。涙を。止めることも出来ずに。
ありがとう、と。
掠れた声で。思いを、伝えた。
◇◇◇◇◇◇
二人と共に廊下を歩く。
彼女達は、既に泣き止み。マト自身、アリスに怪我をして欲しくないと。アリスの手は、今はマトの手首を握り。反対側の手は、私の手。三人並んで、廊下を進む。
アリスは思っていたよりも、ずっと強い子だったよう。そして、マトも。何事にも動じない……あの怪物と対峙しても。私たちの前に立ち。身を挺してまで戦ってくれた……戦ってくれるほど、力強い子なのだと。
誤解していた。見えていたのは、見ていたのは。表面だけ。その裏側、隠していた感情、内面まで。私は知らず。アリスは、決して。自分が一人になるのが嫌なだけではない。誰か、マトや……多分、私が。一人きりになろうとすれば、それをも拒む。誰かが孤立するのを。誰かが寂しい思いをするのを、悲しむのを嫌った。そして、そうさせないだけの強さがあって。マトは。それこそ、感情を殺し。自分を殺して。それは、そう。まるで、人形のように振舞おうと……製作者によって名付けられた。皮肉交じりの名前。その意味が分かってしまって、自分が少し嫌になる。
彼女は。放っておいたならば。感情を殺し続ける。自分を殺し続ける。無理を、無茶をし続ける。体を、心を壊しながら。
彼女が辿り着く場所。狂気に呑まれて立ち尽くす。爪を振るい続ける。辿り着くかも知れない姿が脳裏に浮かび。そんな未来は見たくないと。周りに居る、隣に居る。私たちもまた、そんな彼女に頼り過ぎないように。抱え込ませないように。気をつけておかないとならないな、と。
でも。それも。今までよりもずっと、肩の力が抜けたように。自然に。私たちの隣に、在って。きっと、大丈夫。彼女達なら……彼女達となら。きっと、また、何か恐ろしいことが起こっても。乗り越えていける、と。
「……
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