後日談の幕開け
二 悪意
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少し、焦るように。アリスは。片手で、リティの手を握り。握ったまま、空いた手を。
空いた手を。私に――
「っ……」
差し出すその手に。反射的に。伸ばしかけた手。彼女の手を。掴もうとしてしまったこの手を、引く。
掴めないのだ。私は。それは疎か。この手、この爪。近付けることさえ、怖くて。怖くて仕方が無いというのに。
恐怖に反して。手を握りたい。彼女達と。彼女達の手を。もっと近くに寄り添い合いたいと、そう、そんな欲求が込み上げて。
意味も分からないまま。薄暗い世界に放り出され。悍ましい怪物と対峙して。その肉を握り、潰し、切り裂くためだけの手、そんな手しか。持っていないこと。与えられなかったことが、酷く心を締め付けて。
それどころか。私の体。三本の腕、獣足、私自身。怪物のそれ。彼女達とは違う。私一人。彼女達と。離れ、離れて――
胸の内。突然、湧き上がる何か。冷たく、熱く、息の詰まる。込み上げるそれは。下手をすれば、溢れ出してしまいそうな。
背を向ける。このままでは。心を癒してくれる存在。大切な存在。大事な、大事な、彼女、彼女だというのに。その顔を見るだけで、胸を。心を。湧き上がるそれに、押し潰されてしまいそうで。
こんな思いをするならば。こんな思いをする必要は。無い、無いのだと、胸の中、言葉にはせず。自分自身に言い聞かせる。
「なら、行こう、か。一応、私が先、行くね」
言葉を。発するのも。これ以上。堪えるのも――
「マト」
背を、向けた。私の手を。小さな手。柔らかな手が。手が。
「あ、アリスっ」
手を。掴んではいけない。私の手を。触ってはいけない、いけないというのに。あの怪物。硬い皮膚、肉。貫き、切り裂くほどに鋭く硬い、この手を。
咄嗟に振り払いそうになるも、それで怪我をさせてしまうかもしれない。動くことも出来ず。指、手のひら。幾ら、彼女もアンデッドとは言え。既に。爪の根元、本の僅かに触れただけで。彼女の手からは、その血、粘菌、溢れ出して。
傷付けてしまった。私の手で。彼女を、大事な人を。溢れ落ちる赤い液体、その色は、鮮明に。思考は、白く。塗り潰されてしまいそうで。
「アリス、離、して。だめ、駄目だから」
どうにか、声を発しても。彼女は。離さず。只。只。
笑みを。落ち着いた、笑みを。浮かべるだけで。
「大丈夫。大丈夫だから……そんなに簡単に。マトは私たちを傷つけない」
手を。私の手を更に強く握り、握ったまま。彼女は。彼女は。
「っ、だめ、アリス、それでも、私は、私は、もう、今だって」
「大丈夫だから。怪我したって……怪我をしても、私は」
私は、傷付いてなんかない。
彼女は。彼女は、その手、傷つけながら。そ
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