後日談の幕開け
二 悪意
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る時間、ころころと変わる彼女の表情。心配そうに自分の小さな手を見て、握り、開き。目一杯に開いても。力を込めて握り締めても。あの、緑色の光は、一筋たりとて輝きはせず。只々、冷たい空気の中で、彼女が、至って真面目に、真剣そうに。握り、開きを繰り返すのみ。そんな姿もまた、この廃屋とは、狂気に溢れた時間の後とは思えないほど、不釣合いなほど、微笑ましくて。
「あまり、自由に使える力じゃないのかもね。使わなくて済むなら、そのほうがいいと思う」
そんな彼女の頭に手をやり。髪を梳くように撫ぜるソロリティ。こうしてみると、姉妹のよう。髪の色が近いこともあるのだろう。彼女たちの髪色は、金。対する私の髪は、黒で。些細なこと、只の偶然。彼女達が人としての姿を保ち、私は一人、多くの変異、改造を受けてしまったこと。それも、あるのかもしれない。
本の少し。小さな疎外感を憶え。そんな自分の思考が、本当に馬鹿馬鹿しい、と。
思えども。彼女達のその姿は。姉妹のそれは。心から羨ましく――
「マト!」
アリスの声。何を意味しているのかも分からない、短い言葉。私へと向けた。
「マト?」
「そう。名前、考えてって言ってたでしょう?」
笑みを浮かべ。言う、彼女。由来は、ああ。オートマトンから。
「私のも考えてくれたのかしら?」
ソロリティは、そんなアリスに微笑みながら。対するアリスも、また。私に向けたそれと同じ、笑みで。
「うん、リティって、どうかな? マトも、マトでよかった……?」
少しだけ、心配そうに。けれど、それは。狂気と隣り合わせの。命の危機と隣り合わせのそれではない。その不安は、穏やかな。平穏な一時、その一欠片。微笑ましいほどに。暗い暗いこの世界、仄かに明るく照らすように。
「勿論。ありがとう、アリス」
礼を述べ。述べれば、彼女は嬉しそうに。そんな彼女を見る私たちも、また。藹々とした時間。こんな時間が、何時までも続いたならば、と。
けれど。
「……そろそろ、さっきの部屋も調べないとね」
リティの声。少し沈んだ。きっと、私と同じ気持ちで零した言葉。
この時間が、少しでも長く続けばよいと。それは、現実逃避にも似た。彼女の言葉に、表情に。心を癒していられる時間。しかし。何時までも、こうしているわけには行かず。動かなければ、きっと何も変わらない。自分たちのことを知るには。作られた理由を知るには。先に、進まなければならない。
あの戦いの後。私たちはアリスをこの部屋に運ぶために移動し。残った手の群を片付ける為に私は残れど、部屋の調査は行なっておらず。この手では、思うようには行えず。
あの部屋は。他の部屋とは違い、物があり。何か、私達の過去を知る為の手掛かりが残されているかも知れな
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