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尼僧
第四章

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第四章

「わざわざね」
「それに対して僕はね」
「普段から歩いていたと」
「そういうことだね。まあ生まれた場所が違うからね」
「どうしてもそうなるというのかい?」
「そうだよ」
 友人はその通りだと述べた。
「そう思うよ、やっぱりね」
「そんなものか。まあ話しているうちに」
「うん、見えてきたね」
「これはまた」
 緑の深い山の中に所々堂が見える。それが長谷寺であった。
 それを見上げてだ。また言う慶祐だった。
「それじゃあ今から」
「そうだね。入るとしよう」
 こう言い合って寺の中に入った。まずは下登渡に入った。そこは。
 左右に花や草木がありそういったものを見ながら上にあがっていく廊下であった。木造であり屋根もある。そこを登っていくのであった。
 そこを歩きながら。慶祐はふと言うのであった。
「しかし」
「どうしたんだい?」
「いや、辛い思いをしただけはあるなって思ってね」
 微笑んで友人に対して告げた言葉であった。
「これだけのものが見られるとなるとね」
「この景色がかい」
「うん、あるよ」
 微笑みはそのままであった。
「かなり辛い思いをしたけれどね」
「山はどうしてもかい」
「それはね。しかしこの景色は本当にね」
「うん、いいね」
「花は今は少ないけれどね」
 あるのは野花ばかりである。他にはない。しかしそれでも充分だというのである。
「草木を見るのもね」
「いいものだっていうんだね」
「君はそう思わないかい?」
 さらに上に登りながら彼に問うのだった。
「この景色は。苦労しただけはあるよ」
「それは確かにね」
 彼もまた認めるところだった。
「いいものだよ。緑を見ていると落ち着くしね」
「気持ちを静かでそれでいて豊かなものにさせてくれるね」
 まさにそうだというのである。
「本当にね」
「全くだよ。それに」
「それに?」
「ここもね」
 友人は今歩いている下登渡について言うのだった。
「いいものだね」
「ここもかい」
「この階段にしても」
 下登渡は階段になっている。そこを一歩一歩踏みしめながらの言葉だった。
「風情があるというか。それに」
「歴史がある」
「そうそう、そうだよ」
 まさにそうだと。笑顔で慶祐に言葉を返したのだった。
「本当にね。歴史も感じるよ」
「できたのは江戸時代の最初だったかな」
 慶祐はこの長谷寺の歴史について述べはじめた。
「確か」
「今の境内はそうだったね」
「そうだね。江戸時代か」
「そう思うと古いね」
「全くだ。それ以前からあった場所だし」
「その源氏物語にも出ているし」
「枕草子や更級日記にも出ているよ」
 他の古典作品も話に出て来た。

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