第十一章
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からね」
「そんなものかね。じゃあそろそろ電車が出るから」
「うん」
二人の言葉のやり取りが変わった。微妙にであった。
その途端に電車が動いた。動きはじめたその中で。慶祐はふと呟いたのだった。
「寂しいね」
長谷寺の方を見ての言葉である。
「どうにもね」
「何か随分離れられないみたいだね」
「どうしてかな。本当にね」
また言う彼だった。
「どうもね」
そんなことを言っているとだった。不意に。
駅に誰かが来た。それは。
「あれは」
「ああ、あの人は」
彼女に友人も気付いた。その彼女は。
栄真だった。彼女が駅に来たのである。そうして慶祐の方を見てである。
微笑んだ。そのうえで頭を下げた。それだけであった。
しかしそれだけでも。慶祐は心の中にある寂しさが消えたのを感じた。そのうえで長谷寺の駅を離れていく電車の中で。微笑んだのであった。
満ち足りた顔であった。その顔で電車の中にいて。今は穏やかでいるのだった。
その彼に対してだ。友人は優しい微笑みで声をかけてきたのだった。
「寂しさは消えたみたいだね」
「そうかな」
「うん、消えてるよ」
こう彼に告げるのであった。
「充分にね」
「だったらいいけれどね。何かね」
「今度は何だい?」
「新しいこともわかったよ、ここでね」
電車の中でこうも言うのであった。
「一つね」
「それは何だい?」
「それは内緒さ」
それが何かは微笑みの中に隠すのであった。
「まあ君も知っているかも知れないけれどね」
「ふうん、僕もかい」
「僕は今知ったよ。それをね」
そんな話をしてであった。彼は京都に戻るのであった。その自分で知ったその感情に満ち足りたものを感じながら。静かに長谷寺を離れるのであった。
尼僧 完
2010・1・11
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