Act_1 《花の剣士》
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一面が、花で染まった場所だった
庭園(ガーデン)──と勝手に私が呼んでいるだけだけれど──は、今日も今日とて
瑞々しく潤された花々で包まれている
アイテムを収集する事が目的で行われるのではない、無意味な過程
結果など何も無い
得るものなど何も無い
ステータスが上がるとか、レアなアイテムが手に入るとか、行ける場所が増えるとか
本当に、何も、無い
この《死のゲーム》が始まって、誰もが自分のことを考えていた
誰もが、"生きること"に向き合っていた
そんな中で、この庭園の持ち主はずっと──ゲームとしてのSAOを見つめ続けていたる
作られたのなら意味がある
作り手の考えが必ず存在する
だから、どんな理由があろうとも、その領域を踏み躙ってはいけない
いつだったか
独白のように呟かれた言葉を思い出す
あれは、いつだっただろう
どこの層での出来事だったかも思い出せない、何か大切な──大切な、言葉だった、のに
ゴロン、と
ハンモックの上で寝返りをうつ
花々の香りに包まれる此処は、何かを考えたいときや、何かを思うときに便利だ
だれかが立ち入ることは滅多にない
と言うか、ほぼ皆無だ
このエリアに入るためには、この庭園の主にアクセス許可を貰わなければならない
アクセス許可を貰ったとしても、こんな辺鄙な場所に来る人なんて、いやしない
だから、彼女は──アスナはこの場所が好きだった
目を瞑り、アスナはまどろみを受け入れる
この暖かな庭園の中で
もういっそ、何もしなくても良いのではないか、と思いたいくらい
──そんなの、許されないけれど
目を瞑れば思い出されるのは"戦いの景色"
いつかの、金属がぶつかり合う音が、そこで行われているように思い起こされた
死のゲームとなったソードアートオンライン──《SAO》
そこで戦う、仲間たちとの思い出
最悪の別れがあった
悲しい出来事があった
思い出すだけで泣き出してしまいそうな
そんな、終わるかも分からない旅での──風化しない冒険譚
そんな、今にも崩れ落ちてしまいそうな場所での──揺るがない事実の話
ゲームオーバーが永遠の死を意味するこの場所で
17歳の少女には荷の重過ぎる出会いと別れ
泣きたい時があろうとも、膝を折ることは出来なかった
膝を折れば終わってしまう
"死"が、足の下から此方を覗き込んでいることを思い出さなければ、泣きそうになる
死は、いつだって、1人1人の傍に寄り添っている
でも、どうか
この場所でだけは、
──そんな思い、忘れていたい
まどろみを受け入れるアスナの周りで、花が、揺れた
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