道化と知りつつ踊るモノ
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官渡での第一戦闘による被害は……袁紹軍の攻める気概を根こそぎ奪い取ったことであろう。
それというのも、曹操軍の兵器によって絶命したモノは少なく、怪我人ばかりが増やされたこと。その上、攻城戦に向かう心をへし折られ、士気はどん底。これで攻めようなどと言う方が異常である。
新たな兵器は恐怖を生む。自分達を鼓舞するはずの新兵器すら敵には効かないとなれば……より確実に。
どれだけの物資を貯蔵していて、どれだけの被害が出るのか。予測を立てられないというのはそれだけで不安になるモノである。
「それで? 田豊さんはどういった方針でこの戦の勝利を得るつもりですの?」
軍議の席。烏巣の陣を準備中の猪々子以外が顔を並べていた。
椅子に腰かけ脚を組む麗羽は、優雅に指を顎に当てて瑞々しい唇を震わせる。
最近は王の所作が板についてきた彼女。自信と勇気の表れであろう、と夕は内心で微笑んだ。
郭図は机の上に広げられた地図を見つめているだけで、夕と同じ筆頭軍師である自分にに意見を聞こうとしなくとも口を挟まず。
「曹操がもうすぐ官渡に到着する」
ギクリ、と身体を跳ねさせたのは麗羽と斗詩の二人。敵がより強大になるのだ。緊張しないはずがない。
情報では洛陽から本拠地に移動したとのこと。其処から合流するのだろうと誰もが予測出来た。
「あと……白馬に向けて幽州の白馬義従を引き連れた曹操軍が進行中。数は……一万八千とのこと」
「なっ……そんなに集めてきたなんて……」
「そう、予想を遥かに超えた数。曹操軍が三千に騎馬隊が一万五千ほどらしい。この騎馬は白馬義従で間違いない。多分、公孫賛が異民族防衛の為に最後に残した兵の全てが来た」
「それほどあの歌が……」
――彼らに力を与えたということですの……
言い掛けて、麗羽は続きを呑み込んだ。
寒気が背筋を這い回る。自分が脚を踏み入れたあの街にの狂気を思い出して。そして憧れを感じて。
自分の治める地の民達はあれほど心を向けてくれるか……そう考えれば、白馬の王に対して劣等感を感じずにはいられない。
華琳が仕掛けた策の事を知らない麗羽は、白蓮の治めた地に憧憬の念を覚えている。
悪の限りを尽くして虐げ、従わせようとする事も出来たのだが、例えこの戦で勝てるとしても麗羽はそうしたくなかった。
芽生え、育まれ始めた王才の資質が悪を許さなかった……わけではない。ただ純粋に、上に立つモノとしての感覚で惹かれてしまったが故、そして先人を敬う心を忘れないが故に。
民から王への愛の歌。
皇帝に仕える自分が持つべき心の歌。
被支配欲を擽るその歌は、上に立ったモノでも根幹を揺るがされる程の威力を秘めている。
根が善人な麗羽にとっては、これ以上なく罪悪感と自責を煽られ
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