第137話 愛紗仕官する
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者達にも昼餉を用意してやって欲しいのじゃ!」
美羽は店内に入るなり店の奥の方に向かって大きな声で言った。
「美羽の嬢ちゃんかい!? ちょっと待っておくれ」
店の奥の方から壮年の女の声が聞こえた。美羽は店内を見渡し、常連客のように迷わず奥の席に腰を掛けた。正宗は美羽に倣って、食台を挟んで美羽の向かいの席に座った。
美羽は手持ち無沙汰気に足をブラブラとさせ店内を見ていた。正宗も店内を見渡す。店内は店構えと同じくボロかったが、よく掃除が行き届いていることは店内の様子を見て一目で分かった。
「美羽、客が私達だけのようだが」
「今の時間帯はこんなものです」
「この店は夕方になると賑やかですよ」
美羽は無邪気な笑顔で正宗に答えた。正宗と美羽が話していると木製の盆で顔を覆った店員が近づいてきた。店員の体つきから女性であることは直ぐに分かった。しかし、盆で顔を覆っているので顔を窺いしることはできなかった。面妖な行動を取る店員を正宗と美羽は訝しんだ。
「あい」
「お客様、ご注文をどうぞ!」
美羽が店員に呼びかけようとすると店員は大きな声で美羽が話すのを制すように注文を取り始めた。美羽は店員を「どうしたのじゃ?」というような表情で首を傾げ見ていた。
正宗は店員の声を聞き表情が変わった。正宗の目つきは彼女に心当たりでもあるように凝視していた。
「妾はいつものじゃ。ところで何故そのように声色を変えて喋っておるのじゃ」
「風邪を引きまして。コホン。コホン。美羽様は『五目あんかけ飯』ですね。お客様、ご注文をどうぞ!」
店員は正宗に注文を言うように急かした。店員は注文をとって早くこの場を去りたいように映った。
正宗は盆で顔を隠す目の前の店員の声に聞き覚えがあり、それが確信に変わったのか店員を見る目つきが明らかに変わった。店員は声音を高めにし正宗達に応対しているが彼を騙し通せる程に彼女の演技は卓越していなかった。彼女自身思いも寄らぬ既知の訪問者に動揺したのだろう。
「店員。その盆を下ろせ」
「お客様、ご注文をどうぞ!」
正宗はジト目で店員を凝視した。
「兄様は愛紗とお知り合いなのですか?」
二人のやり取りを傍観していた美羽が無邪気な表情で口を開いた。店員は予想外の伏兵によりあえなく観念したのか顔を覆う盆を下ろした。彼女は愛紗だった。正宗は彼女の顔を確認するなり笑顔になった。
「美羽、愛紗とは冀州で縁があってな。愛紗、久しぶりだな」
正宗は気さくな表情で愛紗に声をかけた。愛紗の方は気まずそうな雰囲気を体中から放っていた。
「正宗様、お久しぶりでございます。冀州での大恩を受けた身でありながら、失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした」
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