神風と流星
Chapter1:始まりの風
Data.11 決戦前
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「まあ、結局何もなかったんだけどな」
「誰に向けて言ってるの?」
「気にすんな。独り言だから」
迷宮区及びその最上階にあるボス部屋までの道中である。
あの後俺の泊まっている宿まで行き、飯食って風呂入って早々に寝たのだ。
色気のあるイベントなど何もなかった。本気で本当に何一つなかった。
「そりゃ、相手がこれじゃあな……」
「?」
キョトンとした顔でこちらを見てくるアホは、夕飯を男の俺より遥かに多く食った後、武器の手入れをしながらニヤニヤしているような奴だ。そんな奴とどうやってムフフなイベントを起こせと?
「顔はいいのになあ……」
「何かバカにされた気がする」
「気のせいだ」
性格がもうちょっとまともなら、まだどうにか……いや、どうもしないけど。
しばらく無言で歩いていると、アスナが呟いた。
「大丈夫、だよね」
「何が?」
「誰も欠けずに……勝てるよね?」
その問いには、俺もキリトも、口を閉ざさずにはいられなかった。
『誰も死なない』。そう言うのは簡単だ。実際、今回のレイドの平均レベルはβテスト時のこの層の攻略レベルの目安より高い。
だが何が起きるかわからないのがこの世界だ。もしかしたらβテストの時とはすべてが違う可能性すらある。
俺とキリトが黙っているのを見て、若干不安そうになったアスナにシズクが声を掛ける。
「大丈夫大丈夫。何とかなるって!」
ひどく簡単に、楽観的に言うシズク。その言葉にアスナの表情が幾分柔らかくなる。やはり、こういう時はあいつのポジティブさが必要だな。
「そうだよね……うん。大丈夫」
「そうだよ!それにいざとなったら……ルリくんが何とかしてくれるって!」
「おいコラ」
少し感心したのにいきなり評価を暴落させるんじゃねえ。
「人任せにせず自分でやろうとは思わないのか」
「思うよ?でも、何だろうね。最後はやっぱり、ルリくんが何とかしてくれる気がするんだ」
「……」
こいつは……本当にずるい。そんな信じ切った目で見られて、微笑まれたら。
期待に応えるしか、なくなるだろうが。
「おい、どうやら着いたみたいだぞ」
キリトの声に前を向くと、確かに目の前には巨大な二枚扉がある。そこに刻まれているレリーフは獣人たちの王にしてこの層の守護者、《イルファング・ザ・コボルドロード》だろう。
流石にこの緊迫した場面で熱血体育会系のノリを発揮する気はないのか、ディアベルは銀色の剣を大きく掲げると、一度全体を大きく見まわした。俺を含む四十三人のレイドメンバーも、自分の武器を掲げる。その様子を見たディアベルは頷き、青いロングヘアをなびかせ
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