第四章
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第四章
「帰ったんだって。その辺りは本当に気紛れだね」
「まあ猫だからね」
この辺りは亮子もよくわかった。猫という生き物はとかく気紛れで我儘なものである。猫のそうした性格は彼女もよく知っているのである。
「その辺りはね」
「まあ何事もなくてよかったよ」
「そうね。ただ」
「ただ?」
「少し聞きたいんだけれど」
先程のいぶかしむ顔をまた夫に対して見せて話すのだった。何時の間にか散歩は中断となり二人で街の道に立ち止まって話をしていた。
「いいかしら」
「何を?」
「何でわかったの?」
単刀直入に夫に対して尋ねた。
「雀の言葉なんて」
「何となくね」
「何となく?」
「そう、何となく」
驚いたことにこれが返事だった。
「わかったんだよ」
「何となく雀の言葉がわかるの?」
「他には犬や猫の言葉も」
宗重はさらに言ってきた。
「わかるよ」
「嘘でしょ」
「いや、本当にね」
だが彼はここで言うのだった。
「わかるんだよ」
「動物の言葉がわかるなんて」
「不思議かな」
「当たり前でしょ」
今の夫の言葉には口を尖らせて返すのだった。
「動物の言葉なんて普通はわからないわよ」
「僕はわかるけれど」
雀達を見上げながらまた話すのだった。
「昔からね」
「昔からなの」
「それこそ子供の頃からね」
こうも話すのだった。
「わかるんだよ」
「またそれは随分と変わってる・・・・・・どころじゃないわね」
首を傾げながらの言葉だった。
「何でまた」
「親父がそうだし」
「お義父さんが」
「そうだよ。親父って子供の頃山で暮らしていたしね」
「山でって」
また夫の言葉に首を捻る亮子だった。
「山で暮らしてたの?」
「そうだよ。岡山のね」
「岡山の山奥」
とりあえず亮子には想像すらできない世界の話だった。
「そんな場所で暮らしてたの、お義父さんって」
「そんなにおかしいかな」
「おかしいっていうかね」
口ごもりながらもそれでも言うのだった。
「物凄い話ね」
「小屋があってね。そこでね」
「樵でもされていたのかしら」
「樵じゃないらしいよ」
「じゃあ猟師だったのかしら」
「それも違ったらしいよ」
亮子の言葉はその都度否定されてしまっていた。
「どうやらね」
「じゃあ山で何をして暮らしておられたのかしら」
「さあ。僕もそこまでは知らないけれど」
これについては宗重も知らないようである。とりあえず自分の父親が山の中で暮らしていたということだけは知っているのであるが。
「けれどね。山の中でね」
「ううん、やっぱり凄い話ね」
亮子は思わず唸った。
「それであなたが今雀の話がわかったのかしら」
「それもよくはわからないけれど」
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