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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第三話 神槍
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槍李”の槍は神速にして玄奥。
 槍の速度は聖杯戦争にて召喚されたかの槍兵(ランサー)に伍するが、避けにくさではこちらに軍配が上がる。李書文の槍は隙を突くのではなく死角を突く。それも目の盲点ではなく意識に生まれる死角だ。故に生まれる刹那の遅れを、心眼に至る程の経験と、強化とガンダールヴのルーンによって得たバーサーカー(ヘラクレス)に匹敵する程の膂力にて補う。
 だが、そんな針の上を歩くような事が何時までも続くはずもなく。

「―――っ……く」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハ……」

 花火のように、轟音が鳴り火花が咲く。
 単発ではなく連続で。
 鉄で出来た竜巻を強引に殴るようにして捌いているのだ。
 剣だけでなく、身体に対する負担も尋常ではない。
 それでも、衛宮士郎は続ける。
 終わりが見える攻防を。
 一体どれだけ続いたのだろうか。
 一分? 十分? それとも数秒しか経ってはいないのか?
 息もつかせぬ豪雨のように、まさに降り注ぐ勢いで振るわれる槍を力任せに捌くには限界があり、一秒毎に士郎の身体に傷が増え、その深さも大きくなっていき……。
 そして、必然の決壊は予想外の展開が起きることなく―――無慈悲に訪れた。
 滴る血が剣の柄と手の間に滑り込み、握りが僅かにずれ込む。数ミリのズレ。だが、致命的であった。
 士郎の手から剣が飛ぶ。
 自分の手から離れ虚空に円を描きながら飛ぶ二振りの剣を、士郎は一瞥にしない。する暇などない。既に両手には投影した干将莫耶が握られている。だが、李書文の槍はもはやどうしようもない距離にまで迫っていた。行き先は胸の中央―――その奥、心臓。

 ―――間に合わない。

 厳然たる事実。
 


「――――――」



 そして―――懐かしい感覚が士郎の身体に走る。

 初めてではない、二度目(・・・)の―――心臓を貫く痛み。
 
 貫かれ、衝撃が身体を走る。

 波のように伝播する震えは、身体の内蔵を傷付け、身体の内部にて破れた先から流れ出るものが胃へと溜まる。自然喉奥が蠕動した。せり上がる赤く辛いものを飲み下す力はなく、開いた口元からゴポリと音を立て溢れ出る。と、遅れて貫かれた身体と槍の隙間から、粘ついた赤がドロリと滲む。

 力が抜けた両手からズルリと双剣が落ちた。

 指先から段々と力と熱が消えていく。

 加速度的に大切な何かが零れ落ちる中、未だに強く感じるものがある。
 
 硬い異物が身体に侵入する不快感。

 氷水を掛けられたかのような寒気。

 今にも横になりたい誘惑を振り払い、霞、滲む視界を大きく開く。

 睨み付ける先には、自分を貫く槍を握る李書文の姿がある。

 遠い。

 
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