第十四章 水都市の聖女
第三話 神槍
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辺りに響き―――昇龍の如く渦巻く雷龍が空へと昇る。
霧雨を降らせる天を塞ぐ暗く重い雲に穴が空き―――空が割れた。
天に空いた穴を中心に広がった衝撃が雲を千々に千切らせ、下へと叩き付けられるように広がる津波のような不可視の衝撃が、辺りに漂う小雨を散らす。
矢を放つと同時に地面へ叩き付けられた士郎は、強制的に肺から空気が押し出されながらも、視界がぶれ意識が未だ纏まらない中、しかし結果を知るため歪む目で敵を睨みつけ―――
「……化物」
眼前の光景に息を飲んだ。
「―――か、くは、はは、ハハハハ……驚いた。驚いたぞ小僧。それが貴様の宝具か。空間を捻り抉る矢とは。流石の儂も肝を冷やしたものよ。それもあのような状況から矢を放ち。しかも狙いは正確無比……良い―――良いぞ」
「―――っ」
一言で言えば、李書文はボロボロであった。
黒衣の中華服は、もはや服の様相を呈しておらず。特に上半身は僅かな布切れが身体に引っかかっているだけであった。長槍を握る両腕は、血で真っ赤に染まっている。口からは血が混じった吐息が溢れ……。
一見すれば半死半生―――だが、相手はあの李書文。この程度で音を上げるような可愛げがある筈もなく。
士郎を睨めつけるその目はぐにゃりと歓喜に歪み―――地の底から響くかのような喉奥から聞こえるのは……飢えた虎が獲物を前にした際の喜びの声。
……偽・螺旋剣は確実に李書文を貫く軌道を進んでいた。いくら李書文であっても、音速を超える矢を躱すことは困難。例え奇跡的に避ける事が出来たとしても、腕の一つや二つは削り取れていた筈であった。
しかし、結果は負傷はさせてはいるが、出血程深い傷ではなく、重症とも呼べない程度のもの。
つまり、李書文は躱したのではなく―――
「偽・螺旋剣でさえ払うとは……」
ギリッ、と歯を噛み締め睨み付ける。
「……“神槍”の名に偽りなし、か」
「そう褒めるな……しかし貴様は不思議な奴よ。儂と同じく無手にて戦う者と思えば、双剣を使うは矢を放つは……呵々、この世界で相手をした者らは、中々面白い技を使うが、どうも儂には脆すぎての。貴様のように歯応えのある者は居らぬで……ああ、良い―――くはっ、くははは―――ッカハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハは八ハハハハハハっハハハハ……」
ビリビリと空気を震わせる大哄笑。
深い皺が刻まれた顔が割れ、真っ赤に濡れた紅が姿を見せる。
狂気に歪んだ眼差しが、鋭い刃となって士郎を貫く。
「―――ッぃ!!?」
「―――滾る―――滾るぞッ!! 枯れたと思うておった血が沸き肉が踊っておるわッ!! おお、おおっ、何と心地の良いこと
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