第一章
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第一章
山の人
大道亮子は結婚した。姓は夫の姓になり安曇となった。これ自体はいいことだった。
ところが。彼女にはどうしても不思議なことがあった。それはその夫である安曇宗重のことだ。
名前は戦国武将から取ったものらしい。確かに戦国武将の如く大柄で筋肉質でしかも俊敏だ。かつては運動選手として鳴らし今では市役所でいざという時の頼りになる力持ちと慕われている。彼女もその市役所で働いていてそこで彼の気の優しさと力強さに惹かれて結婚したのである。髭が濃く剃り跡が青々としているお世辞にも美男子とは言えない顔だったがそれでもだった。彼が好きになったのである。
ところがであった。ここで問題があった。
どうにも彼の様子がおかしい時があるのだ。最初はふと気付いただけだったがそれは次第に目につくようになった。その問題というのが。
「山!?」
「そう、山なのよ」
学生時代からの友人に自宅で話す。家はごく普通のマンションだ。そこで木のテーブルに友人と向かい合って座りコーヒーを飲みながら話していた。
「山を見てね。時々懐かしそうな顔をするのよ」
「って御主人確か」
「そうよ。この街育ちよ」
こう友人に述べる。
「私と同じでね」
「そうよね。ここって山は見えるけれど」
この友人も亮子の言葉にいぶかしながら答える。答えると共に亮子の肌は浅黒めで目鼻立ちがはっきりしていて日本人離れした、強いて言うならインド人に似た感じの顔を見る。美人と言ってもいい。
「遠くだしね」
「その遠くを見てるのよ」
「そこなのね」
「ええ。おかしいでしょ」
「そうかしら」
「それによ」
亮子のいぶかしむ感じの言葉は続く。
「まだよくわからないけれど」
「わからないけれど?」
「動物の言葉、わかるみたいなのよ」
怪訝な顔で述べたのだった。
「どうやらね」
「動物の言葉って」
「犬とか猫が何言ってるのかね」
このことを友人に話すのだった。
「どうやらね」
「どうやらねってそれはないでしょ」
「私も最初はそう思ったわよ」
コーヒーカップを手に持ったまま怪訝な顔で述べた。
「けれどね。どうやらね」
「わかるらしいの」
「何か話してる感じの場面何度か見てるし」
実際にその目で見ているというのである。
「ハムスターや鳥の言葉だってね」
「わかるの。またそれは随分と凄いわね」
「しかもよ。おまけに」
さらに言うのであった。
「雨とか雪とか降る前は絶対に言うし」
「勘が鋭いとかじゃないわね」
友人もそれはわかった。
「どうやらね」
「何なのかしら」
亮子はいぶかしむ顔で呟くようにして述べた。
「これって。何だと思う?」
「何なのかしらね」
ところがこの友
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