第六章
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第六章
「見て、タマちゃん」
「こいつを?」
「そうよ。今鰯食べてるけれど」
その彼のことを言うのである。
「その時の顔って」
「顔?」
「凄くいい顔してない?」
こんなことを言ってきたのである。
「いつもよりもずっとね」
「そうかな」
言われてもすぐにはわからなかった。
「俺は別にそう思わないけれど」
「見てよ」
しかし美佳はまだ言うのだった。そのタマを見ながら。
「目が細くなって」
「えっ、目が」
目のことを言われて少し驚いたのだった。タマといえばヤブ睨み目である。彼にしろ両親にしろその目つきをいつも悪い悪いと言っていた。だからそれを言われて驚いたのである。
「ヤブ睨み目じゃなくて?」
「なってないわよ」
タマを見ている美佳の声は微笑んでいた。
「全くね」
「そうなんだ」
「よかったら見てみたら?」
その微笑んでいる声で立ったままの桃李に告げてきた。
「今のタマちゃんの目」
「うん、だったら」
その言葉に頷いたうえで、であった。彼もしゃがんでそれでタマの顔を見てみる。するとだった。
「あっ、本当に」
「そうでしょ?」
美佳は自分の横にしゃがみ込んできた桃李に顔を向けて告げた。
「この顔。とてもいいでしょ」
「はじめて見たよ」
まずはこう答えた桃李だった。
「こいつのこんな顔って」
「そうだったの」
「もう何年も飼ってるけれどね」
具体的には五年である。他の人から子猫の時に貰ってそのまま飼っているのである。つまりタマは所謂貰い子ということなのである。
「こんな顔はね」
「はじめてなのね」
「こんな顔にもなるんだ」
その目を細めさせて実に幸せそうなタマの顔を見て言うのだった。
「こいつも」
「それで。知ってるかしら」
美佳は桃李にさらに言ってきた。
「猫ちゃんってね」
「何かあるの?」
「こうするとね」
丁度食べ終わったところのそのタマの両耳に自分の両手の親指と人差し指を当てた。そうしてそのうえで軽く抓んで触ってみせたのだ。
そうするとだった。タマはたま目を細めさせた。そうしてその目をまるで糸の様にさせたのである。
「ほら、気持ちよさそうでしょ」
「そうだね。何かとても」
「喉とかだけじゃないのよ。猫ちゃんって耳を触られても気持ちいいのよ」
「へえ、耳もなんだ」
「あとここも」
今度は額を指で弄る。するとそれも同じだった。やはり気持ちよさそうに目を細めさせるのだった。
「喉とか頬については知ってるわよね」
「一応ね」
知っていると答える彼だった。しかし実のところそうしたところは触っていないのである。いつも無愛想な猫だと思っていたから家族はそういうことをしなかったのである。
「それは」
「目だって可愛い
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