第8話 草原
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本当に静かな町で、人々は路上を埋めて立ち、期待のまなざしで電子のオーロラが埋め尽くす真昼の空を見上げる。
「フレアが来る」
誰かが高まる期待に堪えきれず囁いた。その囁きは囁きを呼び、人々は梅雨明けも蝉の声も知らずに繰り返す。
「フレアが来る」
ACJ道東支社には、守護天使を持たぬが故、一緒に狂ってしまうこともできなかった孤独な特殊警備員たちだけが残った。
警備員たちは厳重に支社の建屋を施錠した。外の異変に神経を高ぶらせながら、何かが来るのを――何かが終わるのを? 待っている。
「フレアは電磁体たちを消滅させなかった。数を減らしたようには見えるけど、単に変質しただけです」
「まあ、私は学者じゃないんでよくわからないけど」
マキメはクグチと一緒に廊下の窓から路上を見下ろして言う。
「あの人たちにはわかるんだろうね。フレアがまた守護天使たちを変えるのを見たいんだ」
「あの人たちは自分が守護天使になれると信じている」
クグチは呟いた。
「結局、何だったんですか、守護天使って」
「ただの電磁体だよ」
「わかってます。そうじゃなくて、電磁生体が民間に広まるその方法……その形が守護天使というパッケージだったのは何でだろうって思うんです。何故もっと事務的、実利的な情報保護技術ではなく、人間に似たものとして形になったんだろうって。そうでなければここまで広まらず、受け入れられなかったのだろうか」
「電磁生体に関する技術の一部はもちろん、戦前から民間に広まっていたよ。それを大人から子供まで漏れなく巻きこんで人々に使わせて……ACJが金を儲けるには、もっと各家庭に浸透させる必要があった」
「各家庭に浸透しているただの道具なら他に幾らでもあります。ホームパネルだって何だって。どうしてそんな家電ではなく、わざわざ人間によく似たものにする必要があったんだろうっていう意味です。ACJがそう判断したのは、社会が、人々が、それを求めたからです。その求めの理由がわからない」
「人口が減ったからじゃないかな」
数秒考えて、彼女が言う内容の意味に思い当たった。
戦争は人の数を減らし、都市を寂しくさせた。その世界で、とりあえず賑やかなもの、とりあえず鮮やかなもの、とりあえず話を聞いてくれるもの、とりあえず隣に存在してくれるもの。決して自分を否定せず、鬱陶しい不幸自慢をしてこないもの。悲しみを、自分の悲しみ方で悲しむことを許してくれるもの。
人間にはどうしようもなく、人間に似たものを必要とする時がある。
ACJは守護天使によって、救済の神話を創ろうとした。
それが来る。
「ありがとうございます」
「何が?」
「話したら少し気が紛れました」
正午、人々が突如として、一定方向に流れ出す。
マキメから離れ、UC銃保管室に向
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