第1章 群像のフーガ 2022/11
3話 夕時の一幕
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、やる奴はあんまいないんだけどな」
何だか変わり者扱いされたようで不服だが、どうやらさしものキリトもそこまでで止まっているようだ。キリトは説明を終えると慣れた手つきでパンにクリームを使用する。キリトと女性に改めて謝罪の品を渡すチャンスが訪れたようである。
「ついでにこれ、使ってみろ」
「……これは?」
「俺も初めて見るな。使ってみるぞ?」
訝しむ寝袋女をよそに、キリトは積極的にクリームの乗った黒パンに手渡した陶器を使用する。ヒヨリもこともなげにパンに使う。初見である二人の予想される反応に期待せずにはいられない。
「これは………!?」
「………ジャム? こんなものまで………」
二人はそれぞれのパンの変化に呆気にとられていた。黒パンに乗るクリームの上には鮮やかな黄色のジャムが垂らされていて、これがまた甘酸っぱい香りを放つのだ。ヒヨリにせがまれるものの、面倒くさいのでたまにしか行ってやれない。それにはちょっとした理由がある。
「前の村の裏手に森があっただろう。日中に広場のベンチにいる老婆に十回話しかけるとフラグが立って《少女と木の実》っていうクエストが受けられるようになる。これはその報酬だ」
「ふつう、そんな条件だと誰も気付かないだろ………あのお婆さん、話しかけてもたまに眠ってるし………」
「隠しクエストだからな。………しかも、クエストを受けられる時間帯は朝の四時から五時の間だ。まともな奴なら知っててもやらないだろうな」
それでも回数こなしてストックを持ってしまうのは俺の悲しい性である。牛クエストをこなす輩が変わり者ならば、こんな隠しクエストをこなす俺はさながら変態だろうか。厨二剣士で変態とはこれいかに。自分で言うのもなんだが《関わりたくない類の人種》だと思ってしまったところが妙に悔しくてならない。
………と、そんなことを言っているうちに、寝袋女はフードファイターもかくやという食べっぷりで完食してしまった。思わず二度見してしまうくらいに見事なものだったが、当の本人は何かに耐えるようにケープを握っては深呼吸を繰り返す。顔が見えない上に挙動も掴みづらい。女性とは難しいものだ。
「………ご馳走様」
「どういたしまして」
「どうだった? おいしかったでしょ?」
素っ気ないお礼にキリトが返し、ヒヨリが食いつく。
しかし、ヒヨリの問いかけにはフードの下で小さく頷く程度とはいえ、ちゃんとリアクションを返してくれている。存外、性格は良い奴なのかもしれない。味を気に入ってくれたというなら報われたものである。
………だが、これ以上の長居は互いに得などないだろう。むしろこちらが一方的に邪魔しているようにしか思えない。
「ヒヨリ、そろそろ行く
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