暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第1章 群像のフーガ  2022/11
3話 夕時の一幕
[4/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
《クエストを受けるのに都合の良い時間帯》とも言い換えられる。虐殺系(スローター)クエストを朝の10時からこの時間までやるとするならば、五個から六個は無理なく片付く計算だろう。
 ………もっともこの二人に至っては、徹夜での救助活動や迷宮区籠りの疲労の蓄積などから、ねぐらで休んでいただけかも知れないが、それによる遅めの昼食というのなら納得のいく推論だ。


「ねえねえ、私たちもここでゆっくりしていっていい?」
「別に俺は構わないけど」


 かなり図々しいヒヨリの申し出にもキリトは快く応じてくれた。だが、相席していた女性の方は完全に無言である。これは、状況から順当に察するなら拒絶であるが、ヒヨリがそんな空気に構う様子は一切なく、あろうことか二人の間に座るという暴挙をやらかしたのである。


「その黒パン、おいしいよね? 私も好きなんだ!」
「………これが?」


 笑顔のヒヨリに、寝袋女は疑問の声で相対する。黒パンを口にしてはいるようだが、残念ながらそれは一手間掛けねばただの固くてボソボソしただけの劣悪な食品なのである。当然、そのままの黒パンを食べたことのないヒヨリと、そのままの黒パンしか食べたことのないであろう寝袋女とでは受容した味覚に極めて大きな溝が生じてしまうのである。
 ………しかし、このままイマドキ(?)の女子が質素な黒パンだけで胃――――というより、脳が訴える空腹感――――を満たすのは忍びない。男女水入らずの空気を粉砕してしまった罪悪感もあり、償いの意思表示として持物(アイテムストレージ)から、ヒヨリも大好きな例のブツを取り出そうとすると、既にキリトがそれを、封のされた小さな壺状のアイテムを懐から取り出していた。


「そのパンに使ってみろよ。ヒヨリは今朝も食べてたし、これの事を言ってたんだよな?」
「うん! それね、とってもおいしいんだよ!」


 キリトから受け取り、ヒヨリの言葉を受けつつ、寝袋女は恐る恐る壺の蓋をタップする。浮かび上がったポップアップメニューを操作して指先に紫の光が灯った状態《対象指定モード》で黒パンに触れる。
 すると、黒パンの表面に重量感のあるクリームが盛られたことに寝袋女は驚いたようで、僅かに肩を震わせて反応した。隣の相棒に至っては「指が光った………」と別の意味で困惑していた。ヒヨリは寝袋女の見せた《スマートなアイテムの使い方》ではなく、直に蓋をあけて塗ったり、物に垂らしたりといった《使用動作》を行っているのである。どっちにしても使う事には変わりないが、要は気分の問題だと思う。かくいう俺もメニューからの使用はあまり行わない。


「………クリーム? こんなもの、どこで………?」
「いっこ前の村で受けられる《逆襲の牝牛》ってクエストの報酬。クリアに時間かかるから
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ