第百八十三話
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第百八十三話 虫歯でなかったから
ライゾウはこの日華奈子と美奈子の家で漫画を読んでいた、人間の様に横にゴロ寝になって右の前足で肘をついて肉球を枕にしてだ、左の前足で漫画をめくりポテトを食べながら読んでいる。その彼を見てだ。
華奈子はそのライゾウにだ、こう問うた。
「ねえ、あんたね」
「何だよご主人」
「何日か前虫歯って言ってなかった?」
「そういやそうだったか?」
奇麗に忘れている返事だった。
「そんな気がするな」
「今まで忘れてたのね」
「何かな」
今度はいささかあやふやな返事だった。
「忘れてたよ」
「普通忘れる?」
「そういえばその時はな」
「その時は?」
「気になってたよ」
ライゾウもこう華奈子に返した。
「虫歯かもってな」
「虫歯じゃなかったのよね」
「ああ、だからな」
それでだったというのだ。
「歯も痛くならなかったしな」
「だからなのね」
「ああ、特にな」
それで、というのだった。
「思い出すことなかったよ」
「それはいいことね」
「そうだろ、ただな」
「ただ?」
「まあそんな程度ってことだろ」
やはり実に素っ気ない返事だった。
「その特気になってもな」
「本当にあっさりしてるわね」
「これが虫歯なら違ったよ」
実際にそうだったらというのだ。
「けれどそうじゃなかったからな」
「気にならなくなったのね」
「そうだよ、だからご主人もな」
華奈子にしてもというのだ。
「忘れてくれよ」
「あんたの歯のことは」
「またおかしくなったら言うからさ」
「歯磨きしてるのよね」
「一日も忘れたことないぜ」
これがライゾウの返事だった。
「一度もな」
「それで歯が痛くなるのって」
「そういうこともあるんだろ」
「何か噛み過ぎたの?」
「そうかもな」
こうあっさり言うライゾウだった、何でもない様に。
第百八十三話 完
2014・11・7
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