第七十一話
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エギルの店から電車のホームでリズと別れ、午後三時。アルヴヘイム・オンラインが臨時メンテナンスを終え、再びあの世界へ行くことが可能となる。道場で行っていたリハビリを兼ねた鍛錬を終えると、アミュスフィアを置いてある離れの自室へと向かう。
「あら」
しかし、先日一晩中やり続けていたにもかかわらず、メンテナンスが終わったらすぐにゲームを始めようとするとは、どうやら自分もゲーム廃人の仲間入りか。いや、二年間もやりっぱなしだったのに今更か――などと益体にならないことを考えながら、道場から自室に向かっていると、買い物から帰って来た母と鉢合わせした。晩飯のメニューのようだが、多種多様な野菜が雑多に入っていて、どんな料理が完成するのか見当もつかない。
「翔希、今日のリハビリは終わり?」
「あ、ああ母さん。今から離れに行くところだよ」
まさか、今からVRMMOしに行くんだ、とは言えず。SAO事件を経て敏感になっている俺たちにとって、VRMMOのことは鬼門中の鬼門である。なので、出来るだけ平静を装って母の問いに答えたが……
「……翔希、最近何か隠してない?」
……隠せていない。母は強しというべきか、母に勝てる気はまるでしない。買い物袋を持ってこちらを胡乱げに睨みつける母に、どう言い逃れをするか考えていると、母がいきなりクスクスと笑い出した。
「なに深刻そうな表情してるの。隠し事なんていくらでもあるでしょ、普通」
そのまま笑いながら、母は台所の勝手口へと向かって行く。……からかわれただけなのに俺が気づいたのは、勝手口のドアがバタンと閉まる音とほぼ同時のことだった。
「くっ……」
全身に満たされる敗北感に支配されながらも、時間を大分ロスしていることに気づき、足早に離れの自室へと走る。近くの店で買った簡単な鍵を掛けると、素早くアミュスフィアの準備を整える。
「リンク・スタート!」
敗北感を解き放つかのように気合いを入れて叫ぶと、すぐに俺の意識は現実世界からもう一つの世界へと移っていく。現実世界の一条翔希から、仮想世界の風妖精のショウキへと。自室の布団で寝ていたはずの自分は、首都アルンの宿泊施設の一室で目覚めていた。
「ふぅ……」
高いユルドを払っただけあって寝心地の良いベットから起き上がると、仮想世界の自分と同期するかのように身体をコキコキと鳴らす。しばらく身体を伸ばしたりほぐしたりを繰り返すと、満足して待ち合わせ場所にしていた宿泊施設のロビーへと歩き出す。一連の動作には正直何の意味もないのだが、気分の問題である。
ロビーはまるでホテルのように広く、ウェイターNPCが忙しそうに歩き回っている。中には受付やお土産屋、武具屋にカフェどころか鍛冶屋まであり、何とも豪華な場所だった
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