捨てきれぬ情
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状況を鑑み、その滑稽さを自嘲した。
「どうかしましたか?」
知らず知らずの内に考え込んで、透真は足を止めていたらしい。気づけば、後ろからリャナンシーが彼の顔を覗き込んでいた。
「……い、いえ、ちょっと施設や残された孤児達はどうなったのかと思っただけです」
間近で見る鬼女の人外の美しさに息を呑む透真。『妖精の恋人』の異名を持つだけあって、その美しさは魔性と言っていいレベルであった。隠し切れぬ動揺をあらわにしながらも、どうにか誤魔化そうとうする透真。
「あの施設は封鎖された。実験体である孤児達も、各地の施設に分散されたらしい。どうも、あそこでの実験は断念したらしいな。まあ、あれだけの不祥事を起こしたんだ。いくら桐条とて、完全な隠蔽は不可能だし、表裏関係なく追求されることになるだろうからな」
いつの間にか戻ってきていた卜部がつまらなさそうに言う。
「そうですか……。俺のしたこともあながち無駄じゃなかったことですよね?」
透真は、正直、透夜以外の孤児に思い入れはないが、残された孤児達が少しでも生き延びられるなら、それは喜ぶべきことだろう。
「さて、それはどうかな?確かに一時的には生き延びられたかもしれんが、連中はきっと同じ事を繰り返すだろう。そして、あの施設にいた孤児は全員が売られた子供だ。戸籍も抹消され、下手をすれば名前すら奪われている者すらいたんだ。もう、普通の日常を送るなど不可能だろう。たとえ、運良く生き延びても碌な事にはならん」
生きながらにして、死んでいるようなものだと吐き捨てるように言う卜部。
「そうかもしれません。ですが、それでも生きていて欲しいと思います。死は絶対の終わりです。死ねば、何もできないのですから……」
透真のその言葉には幼子とは思えない実感と重みがあった。卜部やリャナンシーがかける言葉をなくすほどに。
「余計な時間をとらせて、申し訳ありません。早く戻りましょう」
そんな両者に対し、殊更に明るく透真は声をかけたのだった。
「どうしたもんかね……」
卜部は作成済みの報告書を見直しながら、ある一文を修正すべきか悩んでいた。
「あの子の処遇についてですか?」
「ああ、そういやあの小僧は?」
「覚醒したばかりの異能を使ったせいで疲れたのでしょう。今はまた夢の世界です」
「たくっ!野郎のために頭を悩ませているていうのに、いいご身分だぜ!」
卜部は毒づきながら、何度目か分からない報告書の文面の見直しを行う。
卜部が迷っているのは、己が所属するファントムソサエティへの報告書に、透真のことをどう記載するかだ。透真その存在自体は記載しなければまずいが、その生死に
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