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すれ違い
第三章
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である。彼はそこも口にするのだった。
「行きたいものだ」
「バイロイトにかい」
「ああ、あそこに毎年行ければそれで幸せだ」
 それだけでいいというのだった。
「僕は別にお金には興味はないしね」
「そういえば君は無欲だね」
 オスカーは彼のその特性を知っていた。
「本は好きだけれど」
「別に必要ないじゃないか。そんなものは心の前には何の意味もない」
 こう言うのである。
「芸術の前にはそんなものは何の意味もないさ」
「だからかい」
「そうさ。それでだけれど」
 友人に顔を向けてさらに話すヒトラーだった。ウィーンのその石畳の上を歩きながら。
「そろそろその店だったね」
「ああ、そうだね」
「さて、楽しみだね」
 チョコレートを前に微笑む彼だった。

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