三話「朋也」
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小鳥のさえずりが外から聞こえてくる霧のかかった早朝、築数十年の古いこのアパートの一室には容赦なく冷たい空気が入り込んでくる。
「うぅ……」
そんな冷たい部屋で布団のぬくもりこそが唯一の救いだ。まだ、寒さの残る冷たい部屋から自分を温もってくれる布団と離れたくない。
「ああ……」
目が覚めて唸る俺は、隣で眠っている智代を見た。彼女の寝顔は可愛い。こんな美女と同じ布団で寝ているなんて夢のようだ。
……だが智代とは、まだ会って見ず知らずの、それも当初は襲われかけたのに、こんな俺とよく添い寝するものだ。いくらなんでも無防備すぎるとおもうのだが……
「さて……」
今日は智代よりも先に起きてドアから新聞を取り出した。新聞を読むのはそこまで好きではないが、あれ以来噂がプツリと途切れた連続殺人事件のことが忘れられず、俺は未だにその新たな情報を得るまで新聞を毎朝読むのが癖になり、それが日課になっていた。
そう、俺が智代の家に来てから半月が経った。最初は遠慮があったが、今では日々楽しく俺は彼女と生活を共にしていた。だが、一つ気が重いのは俺が「ヒモ」という存在になっていることだ。
いつも彼女が働いて、俺が家事などを担当している。当初、俺が働きたいと希望したら彼女は慌てて否定した。「私は大丈夫だが、お前を知らない周囲の人間が、お前の「怪力」を見たら騒ぎになるぞ!」と、いうことで断念することに……
あ、ちなみに言い忘れていたが、俺はあのバッタへ変わらなくても、超人的身体能力と人並み外れた怪力を引き出せることができる。さすがに、力はバッタのときの半分しか引き出せることができないが、それでも使うときは十分に便利だ。
「やはり、ないか……」
今回も新たな情報を得られることはできず、俺はため息をつく。
「おや、もう起きていたのか?」
背後から智代が起きてきて俺の隣に座った。
「ああ……」
俺は彼女に振り向かず、見落とした記事がないかもう一度新聞を読み直していた。
「まだ、あの事件のことを気にしているのか?」
新聞を読む俺を見て智代はそう尋ねた。
「ああ……」
「そうか……」
智代は朝食の支度をし、俺は朝食ができても新聞を読み続けていた。新聞が顔を覆い、箸でおかずを突かせながら飯を食った。
「シン、行儀が悪いぞ?」
「ん、ああ……」
行儀が悪いといわれても、俺はそのまま食事を続けた。智代が食器をかたずけているときも、俺は新聞を読むのをやめなかった。
「シン?」
台所から智代が俺に振り向いた。
「どうした……?」
「明日の休日、付き合ってもらいたい場所があるのだが、いいか?」
「別に構わないが?」
「なら、明日朝食を終えた後に出かけよう。なに、遠方までは出向かない。この町の近くにある場所だ」
そう言い終えると、智代はOLのスーツに着替え
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