第1章 群像のフーガ 2022/11
2話 情報屋
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およそ四時間、フィールドを歩いて辿り着いたのは《森の空き地》としか言い様の無い辺鄙な場所だった。通常の移動ならもう少し早く着けるのだが、今回はプレイヤーまるまる一人背負ったキリトがいたこともあってこの所要時間となったわけだ。ゆっくり歩いた分、フィールドに《意味ありげなオブジェクトやNPC》なんかの見落としがないか目を皿にしていたが、今回は不漁に終わった。狩りの方も思いのほかドロップも少なく、消化不良が否めない。二着目の《コート・オブ・アヴェンジャー》を入手できただけでも良しとしよう。
それはそれとして、キリトの妙な遠慮は気になるところだった。どうせ帰るなら街まで送るというこっちの申し出に対し、どういうわけか「申し訳ない」と辞退されたが、本人の意思は尊重するに越したことはない。興味本位で詮索することはもうするつもりはないのだが、どうせ変なことは考えていないだろう。抱えられていた寝袋女はかなり美人だが、このキリトという男は意識のない女性に狼藉を働くほど《つまらない行為》に及ぶような人間ではないのは少ない時間でのやりとりの中で分かっているつもりだ。というより、この寝袋女の方がむしろ危険な気がしてならない。汚い手で触れようものなら、噂の《リニアー》で掌から肩まで貫かれそうな鋭さを感じる。
「さてと、本当にここで良いんだな?」
「助かったよ。わざわざこんなところまで付き添ってくれて……」
寝袋女を包む寝袋をポップアップメニューの操作で剥ぎ取って――――そのまま寝かせてやればいいのに――――キリトが頭を下げた。赤いフーデッドケープを羽織ったその女性は、全く目を覚ます気配がない。しばらくはこのままだろうか。
ただ、キリトの声が暗いのが少し気になる。どういう事かは分からないが、思い悩むことでもあるのだろうか?
……だが、あまり互いに踏み込み過ぎても利は少ない。そもそも、キリトは俺よりも先にはじまりの街を発ったプレイヤーだ。俺が心配するほど弱い人間であるはずがない。それに、昨夜渡しそびれたブツを預けて大人しくなっているとはいえ、ヒヨリを待たせ過ぎても悪い。そろそろ頃合いだろう。
「じゃ、ここらで失礼するよ」
「……リン、答えたくないならいい。でも、聞きたいことがある」
呼び止められ、ひとまず足を止める。
《ちゃん付け》はなくなったとはいえ、名前で呼ばれるのに慣れ始めた自分に軽い嫌気を覚えながら話を促した。詮索してしまった貸し借りはこれで帳消しとしよう。
「ヒヨリと行動することは、怖くなかったのか?」
そう質問するキリトの表情は、辛そうだった。おそらく、俺の回答如何では何らかのダメージを与えることも考えられなくはない。
……だが俺は、できるだけ率直に答えることにした。そうでなくては、貸し
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