首無き麒麟は黒と出会い
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そうすればいい。
彼らはバカだ。単純で、素直で、捻くれていて、子供のようなバカ共だった。
故に、一人が叫びを上げた。抑える事が出来なかったのは、やはりそうあれかしと一番に願い続けた部隊長。
「お……御大将っ! 俺ですっ! 幽州での黄巾出兵より徐晃隊所属の――」
姓を叫び、名を伝え、字も真名も……彼の記憶を呼び起こせるようにと宙に張り上げた。
同じように続々と、自分の姓を、名を、字を、そして真名でさえも投げ渡していく。
徐晃隊に於いて彼と真名まで預け合ったモノは副長だけだ。いつか副長のように認められてから預けようと決めていた。強くなってから呼んで貰いたいと希っていた。
それでも耳に挟んでいるモノは多いはず。彼らは仲間であり、同志であり、戦友であり、家族。互いに交換しているモノも少なくない。
きっと彼なら、こうする事で思い出すだろうと……そう、思ったのだ。
「あの東区の店のメシ、練兵の後だったし最高に美味かった!」
「俺なんかゆえゆえから手ぬぐい受け取って鼻血出しちまったんだぜ!」
「えーりんに一緒に蹴られたのは俺でさぁ!」
「俺のガキなんかいつでも御大将のくれたおもちゃで遊んでんだ!」
「副長達と過ごした休暇、バカばっかやってすんげぇ楽しかったよなぁ!」
語るは思い出。共に過ごした大切な日々。誰よりも近しい彼であったから、彼らは泣き、笑いながら語る。
覚えていますか、と誰かが叫んだ。
楽しかったよな、と誰かが笑った。
嬉しかったぜ、と誰かが感謝した。
楽しい日々を、どうか思い出してくれ。俺達はあんたの幸せも知っているから。だから絶望なんか掻き消してやる……と。
静寂が広がったのは彼が目の前で立ち止まるとほぼ同時であった。
憂いに満ちた瞳の色と、悲哀に満ちた苦悶の表情に、絶望が一つ。
彼らは良かれと思ってやった。戻ると思ってやった。だからなんら罪はない。きっと、それで戻る事もあるだろうから。
――ごめん……俺は……お前達の主じゃないんだ
しかし、戻らないなら……今の彼の心を切りつける刃でしかない。一つ一つの言葉が今の彼を切り裂き、追い詰めていく。
しん、と静まり返るその場には道化師が一人。優しくて哀しい笑みをふっと浮かべた。
「……お前さん達には嘘はつかん」
震える声は今にも涙を零しそう。その笑みは、自責の海に沈み込む時の彼と同じであった。
死んだバカ共に、殺した敵達に、いつか死なせてしまうモノ達に、謝ることなど決してしない……矛盾だらけの黒と同じモノが其処に居た。
「……もうちょっとだけ、待ってくれな? 頭ん中に引っ込んじまってる黒麒麟のバカ野郎を、必ず戻してやるからさ」
目に居れた途端に、耳に入れた途端に、慟哭が張
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