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乱世の確率事象改変
首無き麒麟は黒と出会い
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とかお前らにバカじゃねぇのかって怒られるんだ」

 楽しい思い出だ。止めてくれるのを分かってるから、彼はいつも彼らを試す。そんな事は自分では出来ないと部隊長は思う。
 こうして思い出させる事くらい。だが、そうすることでこそ、澱みが少しでも晴れる。彼らの主はたった一人しかいない。
 はぁ……と誰でなく吐息が漏れていた。安息か、はたまた悔いか……否、それは寂寥であった。

「俺達はここに居る。此処に居るって事はまだあの人は帰って来てねぇってこった。だからよ……」

 自分も寂しい、と感じながら空を見上げた。
 蒼い蒼い天には雲一つ無く、日輪の輝きが燃えている。黒一つ許さぬというかのように。

「……もうしばらく我慢しようや。乱世に想いの華を咲かせるのは、まだ早い――――」

 主が帰って来てこそ、解き放たれる想いがあるから……と繋ごうとして、声が聴こえた。
 こんな時に言葉を零すバカ共では無かったはず、そう部隊長は思って彼らを見ると……目の前の者達が震えていた。
 皆の視線は自分の後ろに向けて。耳を澄ませば……足音が一つ。

「お……おぉ……おおぉ……」

 言葉にならない声が皆から漏れる。
 ある者は苦悶を、ある者は期待を、ある者は悲哀を、ある者は歓喜を。
 表情の色彩はそれぞれの予想のカタチを表すかの如く。自然と流れる涙は止められるはずのない想いと渇きから。
 ゆっくり、ゆっくりと部隊長は振り向いた。怖かったから、かもしれない。現実を突き付けられる事が、きっと怖くて恐ろしかったのだ。

 初めに目に移ったのは真黒い革靴。訓練では何回蹴られたか分からない。
 少し上げると黒の外套が揺れていた。月光の上ではためけば翼に見紛うソレに幾度も目を奪われた。
 次に手だ。幾多の傷が走る手。自分達が付けた傷がどれだけ多い事か。
 そして黒こそ、そのモノの証。黒の衣服を見上げて行くと……黒瞳があった、黒髪があった。

「……お、御大将……」

 ずっと求めた彼らの主が、其処に居た。

 嗚呼、と嘆息が自然に漏れる。どよめきが場を埋め尽くす。規律など、守れるわけがない。
 彼は此処に居る。彼が此処に居る。それだけで、自分達は満たされた。
 頭の中から、彼の記憶が無い事など吹き飛んでしまった。
 何故なら、彼らはあの徐州の後、第一も第二も副長も、全ての骸を弔ったというのに、彼を見ていない。
 死んだのではないか、そう思いそうになった時も多々あった。それだけ、彼が居ない事は彼らにとって“異常”だった。
 残存する徐晃隊最古参の彼らは、ずっと黒麒麟と共に戦ってきたのだから。

 思考の空白は、自分達が涙を流していると気付いて掻き消える。
 記憶が消えているなら、自分達が思い出させてやればいい。そうだ、
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