首無き麒麟は黒と出会い
[9/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
とかお前らにバカじゃねぇのかって怒られるんだ」
楽しい思い出だ。止めてくれるのを分かってるから、彼はいつも彼らを試す。そんな事は自分では出来ないと部隊長は思う。
こうして思い出させる事くらい。だが、そうすることでこそ、澱みが少しでも晴れる。彼らの主はたった一人しかいない。
はぁ……と誰でなく吐息が漏れていた。安息か、はたまた悔いか……否、それは寂寥であった。
「俺達はここに居る。此処に居るって事はまだあの人は帰って来てねぇってこった。だからよ……」
自分も寂しい、と感じながら空を見上げた。
蒼い蒼い天には雲一つ無く、日輪の輝きが燃えている。黒一つ許さぬというかのように。
「……もうしばらく我慢しようや。乱世に想いの華を咲かせるのは、まだ早い――――」
主が帰って来てこそ、解き放たれる想いがあるから……と繋ごうとして、声が聴こえた。
こんな時に言葉を零すバカ共では無かったはず、そう部隊長は思って彼らを見ると……目の前の者達が震えていた。
皆の視線は自分の後ろに向けて。耳を澄ませば……足音が一つ。
「お……おぉ……おおぉ……」
言葉にならない声が皆から漏れる。
ある者は苦悶を、ある者は期待を、ある者は悲哀を、ある者は歓喜を。
表情の色彩はそれぞれの予想のカタチを表すかの如く。自然と流れる涙は止められるはずのない想いと渇きから。
ゆっくり、ゆっくりと部隊長は振り向いた。怖かったから、かもしれない。現実を突き付けられる事が、きっと怖くて恐ろしかったのだ。
初めに目に移ったのは真黒い革靴。訓練では何回蹴られたか分からない。
少し上げると黒の外套が揺れていた。月光の上ではためけば翼に見紛うソレに幾度も目を奪われた。
次に手だ。幾多の傷が走る手。自分達が付けた傷がどれだけ多い事か。
そして黒こそ、そのモノの証。黒の衣服を見上げて行くと……黒瞳があった、黒髪があった。
「……お、御大将……」
ずっと求めた彼らの主が、其処に居た。
嗚呼、と嘆息が自然に漏れる。どよめきが場を埋め尽くす。規律など、守れるわけがない。
彼は此処に居る。彼が此処に居る。それだけで、自分達は満たされた。
頭の中から、彼の記憶が無い事など吹き飛んでしまった。
何故なら、彼らはあの徐州の後、第一も第二も副長も、全ての骸を弔ったというのに、彼を見ていない。
死んだのではないか、そう思いそうになった時も多々あった。それだけ、彼が居ない事は彼らにとって“異常”だった。
残存する徐晃隊最古参の彼らは、ずっと黒麒麟と共に戦ってきたのだから。
思考の空白は、自分達が涙を流していると気付いて掻き消える。
記憶が消えているなら、自分達が思い出させてやればいい。そうだ、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ