首無き麒麟は黒と出会い
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た。
月は少しの悲哀に染まる瞳を向けて、あの洛陽から今までをつらつらと説明していく。
自分から生贄になろうとしたこと。詠に止められたこと。誰かに生贄にされそうになったこと。
黒麒麟に助けられたこと。劉備軍に守って貰っていたこと。自分から姓と名を捨てたこと。
彼が壊れた事も含めて、全て。
歯を噛みしめたり、怒ったり、泣きそうになったり……ところどころで劉協は表情を変えていた。
「名を……自分から捨てた? 奪われたと同義じゃろうに」
一番怒っていたのは其処であった。真名しか呼ばれなくなるとはどれほど苦痛なのか、と。
この世界での真名とはそれほど重い。他人が勝手に呼べば、頸を飛ばされかねない程に。
「いいえ、自分から捨てました。どうか生きて欲しい……そう願ってくれた彼の想いに応える為に、そして私が私として責を果たす為に」
乱世の果て、彼が望んだ平穏な世界を見る事で、自分が死なせた人達の想いに報いる……それは月が自分に当てた戒めで、責任の果たし方。
「何故じゃ……ほんにそなたは優しすぎるぞ。黒麒麟や劉玄徳を責める事も出来たであろうに」
詠が責めても、月は彼を責めなかった。其処すら、劉協には不思議でならなかった。
「あの戦が起こってしまった原因は私です。洛陽を火に沈めた原因は私です。私が力不足だったから、陛下も、民も、人々も、あの人すらも苦しめてしまったんです。誰かを責める権利も怨む権利も、私にはありません」
初めて、劉協は月の王としての資質を知る。
彼女は誰かを咎める事はあるが、誰かを責める事などしない。自分の責を棚に上げて喚くモノは王ではないのだ。
――私が桃香さんや彼を責めるなんて有り得ない。私は、悲劇の主人公なんかじゃないんだから……自分で選んだ結果を、他人に擦り付けるなんて出来るわけない。
元より乱世。助けてくれたら、など敗者の弁舌に過ぎない。
彼は怨嗟を向ける事を正しいと言った。人として当然で、奪われた側には感情を抑えるモノの方が稀有であろう。
ただ、月はそれをしない。したくない。憎悪も怨嗟も、自身が凡人だと知っていて、その上で王であったからこそ持つ事はなく、他人のせいだと責める事など……優しい彼女には到底出来なかった。
月は王の理を以って解に辿り着いている。
もし、自分が攻める側であったなら、救援を求められてもそしらぬ顔をしていただろう、と。涼州を守る為なら、自分と同じ立場の人でも踏み台にしていただろう、と。
彼女は嘗て王だった。生易しい覚悟で州一つを纏め上げる事など出来ない。優秀な頭脳を持つ詠が隣に居て、自身を慕う臣下や民達が暮らす地を戦火にする可能性があるのなら……“洛陽に呼びつけられたのが自分でなければ”、今後の為にと連
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