アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方 2
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笑う棺桶《ラフィン・コフィン》を壊滅させたっていう……?」
その質問に、言葉を返すことはしなかった。代わりに口の端を持ち上げて肯定してやると、男は「ひっ」と小さく呻いてまた十センチほど後ずさった。
さて、と声には出さず呟いて振り向く。ロザリアが水色の結晶を取り出したのが見える。
「チッ、転移――」
「させると思うか?」
次の瞬間、ロザリアの手に握られていた結晶は、中心を蒼風に貫かれていた。耐久値が尽き、小さな欠片をちりちりと瞬かせて砕け散る。ロザリアが目を見開くが、何のことはない、ただ走って貫いた、それだけだ。
蒼風を降ろす。上半身を過剰に反らしたロザリアがバランスを崩して尻餅をついた。俺はそれを尻目に濃紺の結晶を取り出して見せる。依頼人の男が全財産をはたいて購入したという回廊結晶だ。
「これで黒鉄宮の牢屋に跳んでもらう。後のことは、管理してる《軍》の連中に聞くといい」
「――もし、嫌だと言ったら?」
「全員、殺す」
間髪入れずに返すと、ロザリアの顔に貼り付いていた笑みが瞬時に凍りついた。当然予想はついていただろうに、よもや見逃してもらえる等と思っていたのだろうか。
呆れを込めてロザリアを一瞥し、左手の結晶を掲げ、言った。
「コリドー・オープン。……この門が消えるまでが制限時間だ。それまでに選べ」
何を、とは敢えて言わない。幾らなんでも、そこまで馬鹿ではないだろう。
男たちは一様に力なく項垂れていたが、やがて長身の斧使いが恨みがましく俺を毒づいて牢獄へと転移していったのを皮切りに、残りのオレンジと針山頭のグリーンが続いた。残すは彼女一人となったロザリアに向き直ると、彼女はガスコンロにこびりついた油汚れのようにどっかりと地面に居座り、ニヤニヤと挑発的な視線と表情で俺を見上げていた。
「……やりたきゃ、やってみなよ。グリーンのアタシに傷を付けたら、今度はあんたがオレンジに……ッ!?」
強気な言葉は、俺がロザリアの首筋に蒼風を添えた時点でプツリと途切れた。意味を持たない、裏返った息が奥歯のぶつかり合う音と共に口から漏れ、瞳の色が挑発から懇願へと様変わりした。何のジェスチャーなのか、両手をあちらこちらに泳がせて喚く。
「ちょっと、やめて、やめてよ! 許してよ! ねえ! ……そ、そうだ、あんた、アタシと組まない? あんたの腕があれば、どんなギルドだって……」
耳障りな単語の羅列に嫌気が差した俺は、蒼風の刃をダメージが発生しない程度にロザリアの首へ押し当て、強制的に言葉を終わらせた。半透明の刀身を伝い、彼女の体を構成しているポリゴンの感触がより鮮明に俺の手にのしかかる。他と何も変わらない、水風船みたいな脆い感触が。
「……「ここで人を殺したって、本当に
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