アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方 2
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な視線。
一メートル、また一メートルと、俺と奴等の距離が縮まる。
やがて先頭を走る男が橋へと差し掛かり、その右手に握られた湾刀の剣先を凶暴な紅のライトエフェクトが包み――刹那、俺は地を蹴った。
持てる敏捷値の全てを両足に注ぎ込み、目まぐるしい速さでそれを回転させる。
風を切り、土ぼこりを巻き上げ。急激ながらも滑らかなスプリントは、風切り音一つ立てることはない。見ようによっては、俺がその場から忽然と消え失せたようにも見えることだろう。
「……ふっ!」
相手の数倍以上のスピードで詰め寄った俺は、既に鯉口を切っていた蒼風を一気に抜き放つと、先頭を走っていた男の顔に正面から単発技《春嵐》を叩き付けた。驚愕と混乱に彩られた男の両目をライトブルーのエフェクトで掻き消し、半透明に輝く刀身で男の顔を薙ぐ。同時に振り切った腕の遠心力を利用して、体を回転させつつ左足で踏み切り、数歩後ろを走っていたダガー使いの頬を撃ち抜いた。更に今度は右足を支点に体を捻り、遅れて飛んだ左足の甲で追撃。体術スキル二連撃技、《双旋月》。
「がッ……!?」
なまじソードスキルを発動させていたがために、ろくな受身を取ることも出来ずに吹き飛ぶダガー使い。俺の蹴りでは筋力メインのプレイヤーが繰り出すそれのような火力は期待できないが、ここまで伸ばしてきた敏捷値補正をフル活用しての一撃は、低レベルの軽戦士程度であれば、十分以上にダメージソースたりえた。
ここにきてようやく異常を察知したのか、一瞬にして男たちの顔色に緊張が浮かび上がった。各々が向けていた剣先が、どよめきを反映してか微かに泳ぐ。
が、だからと言って手心を加えてやる義理もなければ情もない。着地直後に技後硬直の解けた俺は、握り直した蒼風を煌かせ、にわかに慌て出した集団の間を駆け巡る。足が巻き上げた僅かな砂埃だけを残し、駆け抜けざまに《疾風》を見舞った。六発全てを一人に当てていては相手の体力が足りないため、一人当たり二発ずつ切り裂いて次の目標へと移っていく。そして、全員のHPを程よく削ったところで足を止めた。
「な……ん……」
地面に倒れ、頭上のHPバーをレッドゾーン寸前まですり減らした男が、信じられないと言った風に漏らした。無理もない。蹂躙し、嬲り殺すはずだった獲物が突如として牙を剥き、たった十秒足らずの間に、逆に壊滅させられたのだから。
その男の視線が立ち止まった俺へと向く。足先から、すねを経由して膝へ。そしてその脇に下げられていた蒼風を見――その瞬間、男の顔から攻略組の剣閃もかくやという勢いで血の気が引いた。男は腰を地面につけたままずりずりと距離を取り、震える指で蒼風を指した。
「……お前……その武器……その恰好……穹色の風……? あ、あの、|
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