アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方 2
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ぬトーンで返すと、ロザリアは疑問の色を瞳に映して眉をひそめた。口元を平坦に戻し、俺は言う。
「十日前、三十八層でギルド《シルバーフラグス》を襲ったな。リーダーのみが脱出に成功し、残りのメンバー四人が死亡した」
「……ああ、あの貧乏な連中ね」
自分には関係がない、とでも言わんばかりの適当な相槌。
「そのリーダーだった男は、最前線の転移門広場で泣きながら仇討ちを引き受けてくれる人物を探してた。仇討ちと言っても、「殺害」ではなく「投獄」を引き受けてくれる人物を、な」
「なにそれ、メンドクサ」
俺が言い終わったか終わらないかのところで、ロザリアは心底馬鹿にしたように吹き出す。心底人を嘲った、どこか対象に対する憐憫さえ感じさせる笑みだった。
「マジんなっちゃって、バカみたい。ここで人を殺したって、本当にそいつが死ぬなんて証拠ないし。そんなんで、現実に戻った時罪になるわけないでしょ? 大体戻れるかどうかも解んないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわ。アタシそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち込む奴がね」
そこでロザリアはもう一度、愚弄を最大限に込めたせせら笑いを俺に向けた。その瞳に宿っていたのは、今までよりもずっと明確な殺意だった。
「で、あんた、その死に損ないの言うことを真に受けて、アタシらを探してたわけだ。ヒマな人だねー。ま、あんたの撒いた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど……でもさあ、たった一人でどうにかなるとでも思ってんの……?」
ロザリアは右手を肩の上に掲げると、その指先で二度宙を仰いだ。するとそれを合図にロザリアの立つ道を挟んだ左右の木々が激しく揺さぶられ、総勢十人の男性プレイヤーが飛び出してきた。うち九人がオレンジ色のカーソルを頭上に漂わせており、残った一人は昨日バーで見かけた男だった。全員が華美な服装とサブ装備、アクセサリーに身を包み、体の至るところにメーキャップアイテムで禍々しいタトゥーを施している。
男たちに囲まれ、ロザリアは改めて表情を嗜虐と興奮の笑顔で染め、俺を見下した。
「さ、お喋りはおしまい。サッサとあの娘の居場所を教えて頂戴。大人しく教えてくれれば、命だけは勘弁してあげなくもないけど?」
俺はその問いに答えることなく、無言で蒼風の鯉口をきる。それを返答と受け取ったらしいロザリアの顔が、興趣と嘲笑に歪む。
「あ、そ。まあいいわ。そっちがそういうつもりなら、望みどおりにいたぶってあげる。――ヤッちまいな!!」
号令が辺りを駆ける。グリーンの二人を除いた九人の男たちが、暴力に酔いしれながら武器を抜く。口々に何かを喚きながら、ドタドタと粗暴に土を踏み鳴らして走り出す。
獲物の絶望を愉しみ、足掻きを嘲り、死を嗤う残虐
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