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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方 2
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苦しさが、ちょうどいい具合に俺の気を逸らしてくれた。
 その後も俺は、彼女の口車に乗せられるまま――を装って――情報をペラペラと喋った。一通り話し終えると、俺は残り少なくなっていたグラスの中身を飲み干し、ロザリアに奢られた分のコルをカウンターの上に乗せて席を立った。

「いいよ、別に。奢るって言ったっしょ?」
「いや、いい。毒蛾の羽の模様じみた顔の年増で妥協せざるをえないほど、俺は切羽詰まってるわけじゃないんでね」

 俺は振り返ると、愛想を鱗粉(りんぷん)のように振りまくロザリアに向けて、嘲笑と共にそう言い放った。最後に侮蔑の意味を込めて鼻を鳴らし、店を後にする。
 俺の態度の豹変振りに感情が追いつかなかったのか、それとも理性で押さえつけていたのかは知らないが、ロザリアは表面上、平静を取り繕っていた。しかし、俺が顔を正面に戻す寸前になって、堪え切れなかった憤怒に染まった彼女の顔が視界の端に映った。

 薄っぺらいドアを閉めると、途端に冬の夜風が俺を出迎えた。俺が羽織っている《ブラストウイングコート》には中々の防寒性能が付与されているのだが、あちらこちらで塀や壁にぶつかる度にびゅうびゅうと唸りをあげる木枯らしは、透明なコートの上から俺の仮想の体温を容赦なく奪い去っていく。堪らず俺はスラックスのポケットに両手を突っ込み、元来た道を宿や転移門のある街の中心部に向かって歩き出した。
 これで明日、《タイタンズハンド》は俺とシリカを襲いに来るだろう。タイミングは恐らく、シリカが《プネウマの花》を入手し、ついでにポーションや気力体力も消耗した帰り道。後は俺が奴等を牢獄に叩き込めば、それで全て終わり。最後まで抵抗された場合には、《シルバーフラグス》のリーダーに伝えたように、生命の碑に書かれた奴等の名前に、上から線を引いてやればいい。それだけの、そして、既に経験のあることだ。その過程で俺がオレンジになってしまった場合に懸念が残るが、その辺りは彼女たちが上手くやってくれるだろう。

 ――閃光。絶叫。破砕。咆哮。
 忘れることを忘れてしまった俺の脳みそが、今回もまた律儀に記憶を引っ張り出してきた。目に映る道がグニャグニャと歪み、酷く吐き気がする。俺はまだ現実世界で酒を飲んだ経験も、酒に酔った経験もないが、今の俺はそう形容するのが相応しい恰好だった。前にシャンパンを口にした時は、こんなことにはならなかったのだが。
 そういえば、「酒に酔うと記憶が飛ぶ」というのは、果たして本当のことなのだろうか。もしそうなら、俺はこれから酒を手放せなくなるかもしれない。



 一帯のモンスターを殲滅しつつ丘を下った俺は、(ふもと)の小川付近で目標の反応を捉え、川に掛かった小さな橋の手前で足を止めた。《隠蔽》スキルを解除し、何度か深い呼吸を繰り返しつつ
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