第四章
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ヒルデガントはそれを否定しよとする。しかしハンナはその彼女にまた告げる。
「それはね。まだ若いから」
「若いから」
「貴女もオクタヴィアンもまだ若いからなのよ」
薔薇の騎士の主役の一人である。メゾソプラノが歌う役であり役のうえでは少年となっている。だが演じるのは女であるからそれが不倫相手となっている元帥夫人との間にえも言われぬ妖しい愛の絵を映し出させているのである。
「それがわからないのは」
「そうでしょうか」
「そうよ。だから私は」
さらに俯いて。言葉を出す。
「もうこれで」
「終わりにされるんですか」
「最後の舞台で。終わりにしましょう」
舞台に生きる人間として言う。自分達の役になりきっていた。
「いいかしら、それで」
「・・・・・・はい」
ヒルデガントもまた沈痛な声と顔であったが頷いた。やはりここでもそうするしかなかったのだった。彼女も辛かったがそれ以上にハンナの辛さがわかっていたからだ。想い人を粗末にできるようなヒルデガントではなかったからだった。
「それで。終わりにしましょう」
「けれど今夜はね」
そのうえでハンナは言うのだった。
「二人で。いいかしら」
「はい」
ヒルデガントはその申し出を受けた。受け入れたのだった。
「御願いします、それで」
「有り難う」
ハンナは彼女に礼を述べた。そうしてゆっくりと席を立ち上がるのであった。
「行きましょう」
「こうして二人で夜を過ごすのも。あと僅かですね」
「そうね。あと少し」
ハンナはその言葉にまた顔を俯けさせた。
「あと少しだけれど。けれども」
「ええ。それでも」
ヒルデガントも立った。そうしてハンナの横に来た。こうして見れば美青年と貴婦人のカップルに見える。しかしそうではないのはやはり舞台での二人と同じであった。
「一緒に過ごしましょう」
「その僅かな時間を」
二人はそのまま部屋に消えた。そうして朝まで同じ時間を過ごした。その朝は夜での話の時と同じであった。あのココアをまた向かい合って飲んでいたのであった。
「これも同じですね」
「そうね」
ハンナはヒルデガントの言葉に頷いた。二人はホテルの白く気品のある部屋の中で白いテーブルに座っている。ハンナはネグリジェでありヒルデガントはガウンである。それぞれ同じ白い色であったが着ているものが違っていたのだった。二人の後ろにはベッドがある。そこは二人の跡で少し乱れたままになっていた。
「これもね」
「舞台でも飲みましたね」
ヒルデガントはそのココアを右手に持って呟く。寂しげな笑みで。
「このココアを」
「舞台だけじゃなかったわ」
ハンナはそう彼女に言葉を返した。
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