第十一章
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「仕方ないことなんだ」
「私も同じなのね」
ハンナはそのことをまた噛み締めた。
「彼女と」
「そうさ。君は元帥夫人なんだ」
そのことを妻に対して告げた。
「元帥夫人になって今度の舞台を」
「わかっているわ」
今度の言葉は。それまでのものよりは幾分は強いものになっていた。顔も少しだが上がっていた。
「私は。歌えるわ」
「そうだね」
ハンナのその言葉を受けて静かに微笑む。
「君はきっと」
「どんな心でも」
ハンナはこうも述べた。
「私はきっと」
「だからだよ」
彼はまたそこを言う。
「そんな君だからこそ」
「私だからなの」
「そうじゃなかったら僕は今ここにはいないよ」
アンドレアスの言葉は何処までも優しい。その優しさでハンナを包もうとしているようだった。
「そうじゃないかい?」
「私の歌は。そうしたものなのね」
「君はマルシャリンを演じて歌う為に今ここにいる」
こうも述べてきた。
「少なくとも今は。マルシャリン以外の何者でもないよ」
「そうだったら私はこのシーズン、何があっても歌うわ」
今それを心に誓うのだった。
「何があってもね」
「その意気だよ。そうしてね」
「ええ」
また夫の言葉に頷いた。
「最高の舞台にするわ」
「最高の薔薇の騎士を頼むよ」
「わかったわ」
(そして)
夫に応えると共に心の中でまた誓う。その誓いは彼女にとっては誓わなくてはならないものであった。哀しみと共にある誓いであった。
(全てを終わらせるわ)
そう誓うのだった。自分自身に対して。彼女は今自分の全てをそこに捧げようともしていたのだった。
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