第十章
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答えた。
「ですから。だからこそですね」
「はい。私はもう何も言うことはありません」
その言葉を受けて大沢はまた皆に告げた。
「皆さんがわかっておられるからこそ」
「そうですか。それでは」
「一日一日。練習を詰まれて下さい」
彼が言う言葉はそれだけであった。
「それを重ね重ね御願いします」
「はい」
「だからこそ」
彼等は同じものを見て同じものを目指すのであった。その中に同じものがあるからこそ。そうした意味で彼等は一つになっていたのであった。これが大沢の狙いであった。
練習が終わってから自宅に帰り。ハンナは安楽椅子に座って静かに考えていた。考えることは舞台についてであった。それ以外にはなかった。
「誰も死なないけれど」
大沢のその言葉を呟く。静かに。
「けれど少しずつ何かが死んでいく」
「そうだね」
彼女のその言葉にアンドレアスが頷いてきた。見れば彼は彼女のすぐ側にいた。そうしてそこで温かいコーヒーを飲んでいたのだった。
「深い言葉だね」
「その何かは決して一つではないわ」
彼女だけでなく皆がわかっていた。それをあえて呟くのである。
「一つではない」
「じゃあそれは何か言えるね」
「ええ」
夫の言葉に頷いてみせた。
「まずは時間」
「そう、まずはそれだね」
「元帥夫人の時間ね。若さが」
「だから彼女は時計を止めるんだ」
そう言われている。彼女は自分の時を死なせたくはなかったのだ。だからこそ一見して無駄な行動を取っていたのである。そこにあるのは哀しみである。
「どうしてもそれから逃れたくて」
「ええ、そうね」
「そして」
アンドレアスはまた妻に、マルシャリンに問う。
「他には」
「オーストリアが」
彼等の祖国でもあるがここでは舞台となっている国として出された。
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