第二十九話 旅のはじまりその十
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「北海道産じゃないんだよ」
「あれっ、違うの」
「ニュージーランド産なんだよ」
「北海道じゃないの」
「ああ、違うんだよ」
そうだというのだ、実は。
「あの国から輸入したものなんだよ」
「北海道のものだって思ってたけれど」
「そこは違ってさ」
「羊頭を掲げて狗肉をっていうけれどね」
中国の言葉だ、古代中国では羊肉は中国で最高のご馳走とされていたことからの言葉である。
「実際はね」
「北海道かって思ったらな」
「ニュージーランドね」
「美味いけれどさ」
「北海道なのに北海道じゃないって」
「ちょっと、だよな」
「ええ、どうにもね」
首を傾げさせて言う裕香だった、だがそれと共にこうも言うのだった。
「世の中よね」
「世の中ってこうしたこと多いよな」
「そうよね、実は違うってことが」
「羊に限らずな」
「本場ものかっていうと実は違うって」
「結構あるぜ、実際」
「関西でもそういうことあるのよ」
これから旅行で巡るその場所もというのだ。
「本場って思ったら」
「そうなるんだな」
「例えばたこ焼きね」
裕香が例えに出したそれはというと。
「蛸は明石のものとは限らないのよ」
「ああ、関西の蛸ってな」
「明石って思うでしょ」
「実は違うんだな」
「色々なところから仕入れてるから」
大阪のたこ焼きの蛸も違ってきているのだ、かつては明石産が主流だったかも知れないが今は違ってきているのだ。
「それと鱧も」
「鱧かよ」
「関東じゃ鱧食べないよね」
「全然食わないよ」
薊の返事は鱧を知らない人間のそれだった。
「美味いのかね、鱧って」
「美味しいわよ、その鱧もね」
「明石からの奴とはか」
「限らないから、もっとも京都は知らないけれど」
その鱧の本場である、祇園祭は通称鱧祭りともいう位鱧を食べる。とはいっても京都の鱧料理は有り得ないまでに高い。
「あそこはね」
「鱧って高いんだよな」
「あれっ、寮のおかずにも出てるわよ」
「お吸いものでだよな」
「そう、酢のものでもね」
こちらは皮である、関西では鱧の皮も食べるのだ。
「出てるじゃない」
「いや、だからそういうのじゃなくてさ」
「京都の鱧ね」
「あそこのお料理って高いんだよな」
「そうしたお店だとね」
所謂一見さんお断りの店である。
「高いわよ」
「そうだよな、やっぱり」
「まあそうしたお店にはね」
「あたし達泊まらないよな」
「全部八条グループが経営している。会社の保養施設みたいなね」
そうした旅館に泊まるというのだ。
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