魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり2
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この次元世界でも語られる理想郷、失われた超古代都市――そういった類の伝説である。そのはずだった。
「いいえ、アルハザードは確かに存在するわ」
だが、プレシア・テスタロッサは断言した。しかし狂気は見られない。むしろそれは、冷静な科学者としての顔だった。
「時間と空間が砕かれたその先に、忘れられた都は確かに存在している。貴方にだって分かるはずよ。すでに『門』は開かれつつあるのだから」
彼女には確信があるのだ。ゾッとしながらも、それを認めた。認めざるを得なかった。
(何、この感覚……)
生じつつある次元断層から――プレシア・テスタロッサが開きつつある『門』の向こう側から、得体の知れない何かがこちらを見ている。それが分かった。
(でも、これは……ッ!)
それが伝説のアルハザードかどうかはともかく、世界が引き裂かれた先には膨大な力を秘めた何かが存在している。だが、私にはどうしてもそれが彼女の願いを叶えてくれるような代物だとは思えなかった。これは、人にとって決して救いになどならない。
むしろ、その『何か』は、彼女に振りかかった悲劇を見て、ほくそ笑んでいるかのようにも思えた。
「私は、私とアリシアの全てを取り戻す。こんなはずじゃなかった世界の全てを」
プレシアの魔力が跳ねあがった。ディストーションシールドが押し返される。いや、違う。これはもはや喰い破られていると言っていい。
(いくらロストロギアを従えてるからって……ッ!)
それほどに、彼女の魔力は――彼女に流れ込むその『力』は異質だった。このままでは、最悪の予定よりもさらに早くディストーションシールドの限界が訪れてしまう。それでは意味がない。
≪出力を上げて!≫
≪ですが、艦長。それ以上の負荷は――!≫
≪いいから、早く!≫
アースラから供給される魔力が許容量の限界を超える。身体中が悲鳴を上げたが――構わない。どの道こんな状態を長時間続けるような事になった時点で、私達の敗北は決定するのだから。
≪ダメです、次元震止まりません! 次元断層発生まであと一五分!≫
口の中に血の味が広がった。頭痛が酷い。身体中が軋む。こんな様であと一五分、私自身の身体が持つかどうか。だが、力尽きたとしても構わない。
(早く来なさい、クロノ。それに、光君。早く来ないと、世界が滅びるわよ……)
あくまでも主力はクロノ――ひいてはあの子が連れてくるであろう光であり、私はただの時間稼ぎでしかない。だから、時間稼ぎは時間稼ぎに徹すればいいのだ。プレシア・テスタロッサは次元断層を発生させる事を望んでいるが、その一方で間違っても暴走させる訳にはいかない。当然だ。世界を引き裂く力が暴走などした日には、真っ先に引き裂かれるのは彼女自身なのだから。だから、攻撃なんて余計な事をしている暇はないはずだった。
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