第1章 群像のフーガ 2022/11
1話 巡り逢う黒
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たとするならば、予想される手段は現時点において二つだ。
一つはモンスターとの戦闘時にのみ気絶しているプレイヤーを置いておき、戦闘が終了した際に回収して先へ進むという方法。だが、これでは新手のモンスターに保護対象のプレイヤーを襲われる危険性が多分に考えられる。しかも守りながら戦わなければいけないという制約上、行動も限られてしまう上に、まず彼の装備が壁役のそれではない。未マップエリアからの距離を考えれば成功率は極めて低いと言わざるを得ない。
もう一つは、本当に最初から最後まで抱えて脱出するという方法。一人のプレイヤーが運べる総重量はシステムが厳密に規定している。その限界に近づくほどプレイヤーは《重さ》を感じるようになり、実際に動作が鈍くなる。つまり、ステータスにペナルティを課せられるのだ。抱えてこれたところを見ると、重量限界に到達したわけではないようだが、先程の覚束ない足取り一つとってもステータスへの影響は大きかったに違いない。そんな状態でモンスターと遭遇して、果たして迷宮区の奥から脱出できるだろうか。
………要は結論として、どちらにしても成功確率は低いのだ。
だが、モンスターの湧出場所や数といった未知のエリアの情報を《初めから知っていた》ならば成功は確実とは言わずとも、それに匹敵する確率にまで引きあがる事だろう。そして、そんなことを知っているのは元テスターくらいのものなのである。
「そうか、大変だったな」
「運が良かっただけだよ。じゃあ、俺はこれで………」
短いやりとりだけで、その場はお開きとなる。
「あんた、元ベータテスターだろ?」と聞くのは簡単だっただろう。
だが、たとえ互いに同じ元ベータテスターであると確信していても、それを口に出すことはある種の禁忌のようなものになりつつある。俺自身の見解ではあるが、同じベータテスターであるとしても持つ情報は細かく見ていけばそれぞれに差異が見られる。隠しダンジョンや隠しクエストを探しまくった俺みたいな《やり込み派》もいれば、ボス戦闘に全力を注いだ《攻略派》もいる。そして、情報の種類や質によっては嫉妬が付いて回る。「あいつの方がステータスが高い」とか「あいつの方がレアな装備を持っている」とか、ネットゲームではどこにでもある事なのだが、デスゲームと化したこの世界においてのそれは命を守る力の差であって、簡単な嫉妬で済まされるはずもない。それを恐れたが故に、俺たちは――――恐れているのは厳密には俺だけだが――――装備を隠しているのだ。
まして、新規プレイヤーから見れば元ベータテスターは、それこそ憎悪の対象なのだろう………
「私はヒヨリって言うの! で、こっちは燐ちゃん! よろしくね!」
「………あ、え? ………よろしく………ヒヨリに、リン…
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