第1章 群像のフーガ 2022/11
1話 巡り逢う黒
[4/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「ヒヨリ、悪いけど今はお預けだ」
「ああ、ご無体な!?」
「ええい、今はあっちに集中しろ!」
悪代官に手籠めにされる町娘か。と心中でツッコミを入れながらアイテムを全てストレージに戻す。
距離的にもヒヨリが装備を交換する時間は残されていない。未確認の相手に少々心許ないのだが、この装備のまま戦闘に入るか?いや、せめてヒヨリの装備変更や回復の為の時間は稼いでおけるだろうか?
………と、しかし逡巡は徒労に終わってしまう。
「ねえ、あれって人じゃない?……それに、誰か運んでるみたい!怪我してるのかも!?」
ヒヨリの指摘通り、影から姿を現したのは寝袋で簀巻きにされた痩せ形のアバターをお姫様みたいに抱きかかえて運ぶ黒髪で小柄な同い年くらいの少年アバターだったからである。どういう状況なのか測りかねるが、少なくとも普通じゃない。
……そして、このアバター、いや、プレイヤーには見覚えがあった。はじまりの街の広場で近くにいた、黒髪と赤髪のコンビの《慣れてる方》である。
しかし、妙だ。あの時も彼は赤髪と一緒にいたので二人組という点では今と変わらないが、今度は連れている――というか、抱きかかえている――のがどう見ても別人だ。あの時の相方はどうしたのか。少々気になるが、その疑問は脇に押しやっておく。
「あの………その人、大丈夫ですか?」
「あ、ああ………どうやら何日も迷宮区に籠もって狩りをしてたみたいで、未マッピングエリアでいきなり気絶したから放っておけなくてさ………」
心配して駆け寄ったヒヨリに慌てて返答する黒髪の視線は、一瞬だが、しかし明らかにヒヨリの首から下の《ある部分》に向けられていた。気合で視線を逸らしたあたり、なかなかに強靭な精神力の男らしい。それを指標に判断していいのかは疑問だが、好印象に思えた。
「そんな奥で気絶したのか。そいつは」
「俺だって驚いたよ。女性プレイヤーってだけでも珍しいのに、ソロで迷宮区だもんな」
困ったような笑みを浮かべる黒髪のプレイヤーは、そのまま抱きかかえている寝袋女に視線を向けて、どう言い訳をしたものかと意味不明な問題と対峙している様子だった。良く分からないが苦労人のようだ。同情するが、そこには触れないでおく。詮索するような真似自体が御法度とはいかなくとも忌避すべきだという不文律は確かに存在するのだ。これは自衛などではなく礼節なのである。断じて面倒くさそうなどという理由ではない。
とはいえ、これでこの同年代くらいの少年プレイヤーが元ベータテスターであるという事実はほぼ確定したと言えよう。
その根拠となるのが、彼のやってのけた寝袋女救出劇である。
モンスターの巣窟となっている迷宮区を、気絶したプレイヤーを守り切って脱出し
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ