さよなら
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っごく酷い事言ってるのも自覚してる。けど、だからさ」
そう言って。
ティアは、ゆっくりと右手をイオリへと伸ばす。揺らめきそうな視界を瞬きで正常化させて、かつて目の前の彼女が自分にしてくれたように。
「こんな酷い事言ってでも、私はアンタと正面から向き合いたいんだよ」
その目は、真っ直ぐだった。
伸ばされた手を、イオリはただ見つめていた。
迷う事なく向けられた掌の意味をどうにか呑み込んで、その思いをじっくりと噛みしめる。本当に変わっちゃったなあ、なんてどこか寂しく思いながら、その変化を心の底から喜ぶ自分がいた。
『…ティアちゃんは』
漸く、絞り出すように飛び出た言葉はどこか掠れていて、自分の声ながら驚く。それでも、そんな声でも真正面から受け止めるティアは、イオリから目を離さない。
『昔から、そうだよね』
「ええ」
『あたしが知ってる頃から、そうやって…自分の言いたい事は、全部言ってたよね』
それが原因で冷たい印象の強いティアだが、イオリはちゃんと知っている。
彼女は、本当に言いたくなれば誰かを気遣う事だって言えるのだ。むやみやたらに気遣いを見せないのは、その必要がないと信じているから。この気遣いが逆に重くなってしまうと知っているから。
『ずっとね、羨ましかったよ。何でも自由に言える君の事が、羨ましくて仕方なかった。あたし、5人兄弟の1番上だったから、ずーっと我慢ばっかりしてきた。それが“お姉ちゃん”になった人の絶対的なルールだと思って、泣くのも甘えも全部我慢してたんだよ』
どこか八つ当たりめいたそれにも、ティアは表情1つ変えない。きっとそれは彼女なりの優しさで、最低限の言葉以外を挿まないのもきっとそうだ。
それがとても嬉しくて、イオリの視界が霞んで揺らめく。
『だからかな、ティアちゃんが言うみたいに作って笑ってたのは。我慢が日常的で、毎日毎日それだけをしてたから、笑えなくなっちゃった。もちろん楽しい時は普通に笑えたよ?でも、君を安心させたい時に限って、何でか素直に笑えないんだ』
それが何より憎たらしくて、作り笑いしか出来ない自分が嫌になった。聡明な彼女の目はそれすらもとっくに見抜いていただろうけど、あえてそれを指摘しない優しさが嬉しく、痛かった。
『ゴメンね、そんな酷い事言わせちゃって。言われないと言えないなんて、師匠失格だね』
頬を伝う涙を、慌てて拭う。
きっとティアはその涙をはっきり見ていただろうけど、なんとなく隠したかった。あの子の記憶の中では「いつでも笑ってる明るい人」でいたかった。
スッと右手が下がる。顔を上げると、ティアが俯いていた。華奢な方が、震えている。
怒らせてしまったのだろうか―
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