さよなら
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てしない、ただ一緒にいる事だけを望む声は、どこまでも痛切で。
それが叶わないとナツ達も、ティア自身も解っているからこそ、辛い。
ルーが声を掛けようと1歩足を進めるのを、ナツが止める。向けられた顔に首を横に振れば、ルーは小さく頷いた。
今は、声を掛けてはいけない。今は、無理をして“いつものティア”にさせてはいけない。
声を掛ければきっと、彼女は涙を拭うから。何事もなかったかのように、呆れた顔でハンカチを取り出して差し出すから。悲しさを、押し殺してしまうから。
「言いたい事、いっぱいあったのに。……ありがとうって、言いたかったのに…!」
華奢な体躯が、震える。
今のティアに何か出来るほど、ナツ達は器用じゃなかった。
「あんな事、言いたかったんじゃない。ありがとうって……師匠でいてくれて、嬉しかったって……!」
どうしようもない感情を吐き出すように、ティアは1人呟いていた。
普段大きな感情を持つ事がないティアにとって、こんなに大きな悲しみを抱えるのは滅多にない事で、どう扱っていいのか解らないのだ。
「何で…何で、言えないかな。何で……ああいう事しか言えないかな…」
もう解らない。自分で何を言っているのかも、抱えるこの感情も。
ただ脳裏に焼き付いているのは、最後のイオリの微笑みと、最後の一言だけ。
「一緒にいたい……ずっと、隣にいてほしかった……!」
本人の前では言えない本音を吐き出す。相変わらず言うのが遅い、なんて思うのが馬鹿らしかった。
イオリが立っていたあの場所を見つめ、ティアは唇を噛みしめる。言う前に消えてしまったせっかちな師匠に向けて、最後に言う。
「さよなら…イオリさん」
きっともう、会えないから。イオリの発言にツッコんだりなんて、もう出来ないから。感謝の気持ちを伝える事だって、2度と出来ないから。
だから、もう彼女はいないけれど、最後に伝えよう。
「あなたの弟子で、幸せでした……!」
遠くで、彼女が笑った気がした。
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