さよなら
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何をよろしくなのかは、敢えて言わなかった。それは、ナツ自身が決める事だと思ったから。
何か言いたげに目線を彷徨わせたナツは、少しして何も言わずに頷いた。そんなナツに笑みを返して、イオリは真っ直ぐ前を見る。
『ゴメンね、ティアちゃん。もっといろいろ話したかったけど、もうダメみたい』
どうにか肩は残っていた。太腿は完全に消え、腰辺りが徐々に消えかかる。長いポニーテールの先がゆっくりと消え始め、イオリの存在そのものが淡くなっていく。
その様子を、ティアは真っ直ぐに見ていた。時折揺れるその目には迷いがあったが、目を離す事だけはしない。
『……ねえ、ティアちゃん。最後に1つ、お願いしてもいいかな』
そっと声を掛けると、ティアはぱちりと瞬きをした。やや驚くようなその表情に、イオリは言う。
『―――――笑って?』
「え?」
『笑ってほしいの。こんな状況で言う事じゃないのは解ってるけど、笑ってほしい。最後だもん、笑っていてほしいよ』
「……さい、ご」
掠れた声に、頷く。
もうきっと会えないから、敢えて最後だと断言した。過去に踏ん切りをつけて、前を見て先に進んでもらう為に。
『ねえ、ティアちゃん』
もう1度、呼びかける。もう2度と面と向かって呼べないであろう名を、繰り返す。
溢れる涙を止めないで、それでも笑って、イオリは弟子の名を呼んだ。もう、顔と首しか残っていない。随分ホラーな光景だなあ、なんて他人のように考えるイオリがどこかにいた。
『――――――ティア』
初めて呼び捨てにした声に、ティアは驚いたように目を見開く。けれど、そこにある笑った顔を見つめて―――――彼女は、笑った。
柔らかく、温かで、ふわりと花が咲いたような、そんな笑み。ギルドの誰もが、弟のクロスや兄のクロノでさえ見た事がないような。
涙で濡れた瞳が柔らかく細まるその表情を暫し見つめ、イオリは微笑む。
『ありがとう』
そう言って。
イオリは、狭くなる視界に別れを告げる。
『サヨナラだね。会えて嬉しかった。笑ってサヨナラ出来て、嬉しかったよ』
面影の1つも残さずに消えたイオリのいた場所を、ティアは呆然と見つめていた。
その様子はイオリの葬式での人形のような姿と重なって、ナツは思わず目を逸らす。何故だか解らないけど、見てはいけない気がしたのだ。
「……一緒に、いたかったな」
だから、その囁くような声に気づくのが遅れた。
ハッとしてティアを見れば、その華奢な姿が座り込む。どうやらルーシィ達にもそれは聞こえていたようで、全員の視線がティアの後ろ姿に集中した。
「一緒に、いたいよ……!」
零れる言葉は、飾らない少女の本音で。
高望みなん
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