第二部 文化祭
第57話
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だが)にすっかり悄気た和人は、彼女から目をそらしながら顔を伏せた。明日奈も顔をぷいっと背け、ユイの手をむんずと掴んでずかずか先を歩き始めた。まりあは思わず、その微笑ましさにふっと笑みを浮かべる。
珪子や里香、直葉までもが、明日奈の後を小走りで追った。それに続こうとする和人の手を、まりあはすかさず取る。
「ま、まりあさん?」
ぱちくりと目を見開く和人に向けて、まりあはにこりと微笑み、言う。
「文化祭の後片付けが終わったら、ホールに来てください。私、待ってますので」
誰かを好きになること。それはきっとこの世の何よりも簡単で、それでいて難しくて。だからこそ、愛おしい。
和人への想いを、余すことなく伝えよう。絶対に、後悔しないように──すべての決着を、つける為に。
まりあの鼓動は、先ほどステージに上がって演奏したときのそれとは比べ物にならないくらいに速くなっていた。
和人は、どんな顔をするだろうか。まりあの気持ちを知って尚、今まで通りに接してくれるだろうか。
逃げ出してしまいたい。しかし、ここで尻尾を巻けば、まりあはまた、以前と同じ自分になってしまう。
絶対に逃げたりしないと決めた以上、ここが踏ん張りどころだ。まりあは、ゆっくりと後ろを振り向いた。
「……来てくれたんですね、キリト」
微苦笑を浮かべるまりあの小っぽけな声は、しかしホール全体に響き渡った。
目の前の和人が、折り畳み式のシートをがこん、と開き、そこに腰掛ける。
「そりゃ、来いって言われたんだし。友達に呼ばれて、然して用事もないのに断る必要なんてないだろ?」
友達、と言うフレーズに心を一瞬ずきんと傷め、それでも即座に笑顔を取り繕って言う。
「それもそうですね。来て下さってありがとうございます」
「いえいえ。ええと、何か折り入った話でも……?」
「……はい」
瞬間、空気が重たくなる。顔周りの体感温度が、異常に熱くなる。胸から腰にかけて、冷たいものがさーっと滑り落ちる。
暫の沈黙を破ったのは、まりあ自身の声だった。
「私……」
まりあの言いたいことをようやく察したのか、鈍感な和人はその頬を僅かに赤く染め上げ、ふいっとまりあから目をそらす。まりあは間髪いれず「そらさないで下さい」と告げた。
「ちゃんと……今だけは、ちゃんと、私だけを見て下さい」
「……まりあ、俺」
「今は何も言わずに、聞いて頂けませんか」
温厚な彼女が人の言葉を本気で遮ったのは、これが初めてだ。
和人は見慣れた仕草で肩を竦めると、どうぞ、と先を促した。まりあは思わず口を緩めて、ここ数ヵ月間、ずっと暖めてきた想いを、そっと、そっと優しく、大切に吐き出していく。
「…
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