第二十九話 裏切りの刃
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ランサーのマスター、サチは元々臆病な人間である。
それ故、彼女は接近してからの攻撃が出来なかった。
たとえ盾を持っていても同じ。
敵に…モンスターに近づくのが怖い。
その恐怖心がいつも勝る。
だからこそ、彼女のギルド内でのポジションは決まって遠くからの槍の攻撃であった。
だが、聖杯戦争のマスターとなったことで彼女は変わってしまった。
聖杯を自ら手に入れ、運命を変えるために彼女は自らを内に押し込めた。
彼女は偽った。
臆病な自分を隠すために。
聖杯を手に入れるために。
そして彼女は人との接触を断ち、ランサーを強くする事だけを考えた。
誰よりも強くなる。
そして、すべてのサーヴァントを倒す。
それは同時に、彼女が愛しく思っていた少年も敵に回すことを意味している。
彼女は自らの感情をすべて内に隠し、そして非常な決断をすることになる。
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ランサーは、宿舎の屋根の上で一人、
しゃがみ込んで遠くをじっと見つめていた。
変わり映えのない地平線をのぞむ。
そもそも地平線が有るかどうかも疑問であるが。
彼はいつもこうやって屋根の上から遠くを眺めていた。
理由は単純、他のマスターやサーヴァントが近づいたり、嗅ぎ回ったりしていないかの見張りのため。
たとえ、それが圏内であっても油断はできない。
尾行されたり、見張られたりすることだってあるのだから。
ランサーは、一通り見まわし、異常のない事を確認すると、体を翻らせその宿の一室の窓へ飛び込んだ。
そこが彼女のマスターであるサチの借りている宿であるからだ。
部屋の主はすぐに見つかる。
一室の隅のベッドの上でサチは蹲る様に座っていた。
「―――――はぁ」
その姿を見た瞬間、ランサーは思わずため息をついた。
彼女のその様な姿は、今まで何度も見てきた。
夜になると必ず、彼女は眠ることなくその体制のまま夜を明かすのだ。
「……」
サチはその態勢のまま、ただじっとしているだけ。
何を話すわけでもなく、ただじっと――――――――。
ふだんなら、ランサーはそれに見かねてそのままほっておいて部屋から出て行くのだが、今回ばかりはそれをしなかった。
やがて彼女は、その重い唇を開いた。
「……ランサー、私最低だ」
湿った声がランサーの耳を打つ。
涙声ながらも必死で言葉を紡ごうと口を動かす。
「キリトに……あんな酷い事を……言って……こんなの……私の唯の我儘なのに……」
膝を抱え込む腕に更に力が入る。
そんなサチの姿にランサーは目つきを鋭くしながら、でも言葉を発せず黙って彼女の言葉を聞いていた。
「ズルイよね……私。キリトに…あんな
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