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トワノクウ
トワノクウ
第二十夜 禁断の知恵の実、ひとつ(二)
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には感じられない)露草の機嫌をさらに悪くしてしまいかねない。

 困り果てていると、ふいに露草が歩みを止めてくうを顧みた。びくり、肩が跳ねる。

「んな顔すんな。俺がいじめたみてえだろうが」
「だって、露草さんは何かご不快なんじゃ」
「元からこういう顔だ! ……お前には感謝こそすれ、不愉快になんざならねえよ。だからそうびくびくすんな。お前は俺の恩人だし、何も悪いことはしちゃいねえ」

 くうは、はっとした。今までどこがどうとは言えないが、くう自身に非があるのだと思ってきた。友達に死という最大級の拒絶を叩きつけられた経験が、くうに自らの存在そのものへの罪悪感を植えつけた。

「さっき言ったことだけどな」
「は、い」
「問題は奴の過去だ。――銀朱は人間に自分の女房を殺されたんだ」

 その瞬間、くうに風穴を開けて去ったものは何だったのか。
 くうは無意識にきゅっと露草の手を握っていた。

「混じり者だから、ですね」

 確認するまでもない事柄だったので断定すると、露草は微かに顔色を変えた。

「分かってんじゃねえか。――奴は妖を恐れた人間どもに追われて、逃げてる間に女房を死なせたんだと」
「銀朱≠ウんは、元は人間なんですよね」
「ずーっと前は、な。奴は混じり者だった時間のほうが人生で長え。それでも妖じゃねえ、どっちつかずの半端者だよ」

 ――混じり者は人でも妖でもない狭間の者。
 くうはまた一つこちらでの関係性を覚えた。

「奥様がどんなふうに亡くなったか、聞いてもいいですか」

 露草はわずかに思案するふうを見せたが、じきに語り始めた。

「お前、あの犬憑きの女に会ったんだろ。すぐに憑き物筋だって分かったか?」
「いいえ。朽葉さんがご自分で教えてくださるまで分かりませんでした」
「あの女も混じり者だが楽なほうだ。犬神のしるしを隠せば一応は普通の人間に見える。けど奴は違う。全身にその痕があってとてもじゃねえが隠せねえ。だから周りにばれねえようあちこちを流れ歩いた。女房と一緒にな」

 その奥方も、妖憑きの男と連れ添うからには覚悟があったに違いない。愛する人が妖だろうと付いてゆくという奥方の姿勢は、今のくうにとって羨んでやまないものだった。

「だが、当代の姫巫女が妖退治を今まで以上に推し進めるようになって、まだ緩かった奴への民衆の対応も変わった」

 また銀朱だ。どうしても陰惨な出来事には銀朱の影がちらつく。

「知り合いの密告と、坂守神社に取り入ろうとした輩の追い立て ――逃げる道中、奴は女房とはぐれて、見つけた時には手遅れだったってわけだ」

 種族に拘らず愛してくれた女を喪った男の嘆きはいかほどのものだったか。想像するだけでやりきれない。

「女房は運よく実家に
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