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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語
■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆自己の非同一性
第五十三話 自分探しの旅
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クターネーム》は『ミドリ』だった。だから俺はミドリなんだ。でも、仮に俺がミドリなんだとしたら、俺は間違いなくミズキでもある。――この中途半端な状態が俺を苦しめる。俺はミドリだ、って言い切れていたうちはまだ良かったんだけどな。一旦、俺はミドリでもミズキでもないんだって気づいてしまったら――俺は俺が分からなくなった。『自分が何者か分からない』っていう状態がこんなにも人を苦しめるなんて、俺は知らなかった」

 ミドリの話は複雑で、更にミドリ自身がまだ混乱しているせいかあまり整理されていなかった。横で聞いているシノンは理解するのに時間を要し、ミドリはその間しばらく沈黙を保っていた。
「……私は日本人で、女性で、現実だと中学生で、好きな色は茶色で……っていうふうに『自分が何者か』を説明できる。でもあんたはできない――ってこと?」
 シノンの理解は的確で、ミドリ本人ですらしっかりとはわかっていなかったことを見事に言葉にしてのけた。彼は少し驚きながらも、そのとおりだと頷いた。
「でも、それは違う」
 しかし、彼女は反論した。ミドリの苦悩は和らげることができる、そう確信した響きがあった。
「私は知ってる。あんたはアークソフィアの噴水のある広場でぼーっとするのが好きだし、リズの淹れるコーヒーも好きよね。甘いものはあまり好きじゃなくて、アークソフィアでもおやつはあまり凝ったケーキとかより素朴なクッキーとかの方をよく食べてた。食事だとパスタが好きよね。一緒にいたのは二日だけだったけど、昼食は二日連続でスパゲッティだったでしょ」
「……よく見てるな」
「人間観察は得意なの。こういう細々したことは確かに重要じゃないかもしれない。でも、間違いなくあんたという人物を規定している。あんたはこういう人物なのよ。あんたっていう人物はミドリとかミズキというもともといた一人の人物そのものじゃないっていうのはさっきあんたが言ったとおり。それなら、今のあんたがどういう人物なのか、それを説明できるようなことを見つけていけばいいんじゃない?」
 自分がミドリなのかミズキなのか、その二元論で悩み続けてきたミドリにとって、シノンの意見は新鮮で、目の覚めるような思いがした。しかしそれだけに受け入れがたく、彼にはシノンの考えを消化するだけの時間が必要だった。
「ありがとう、少し楽になった。今夜はギルドハウスに戻って一旦よく考えてみる」
「それがいいわ。またなにかあったら話を聞いてあげることくらいならできるから、メッセージよこしなさい」


 しかし、ミドリはその夜、ギルドハウスには戻らなかった。七十八層の副都市『グラジオラス』の中心は噴水のある公園となっていて、ミドリはそこのベンチに腰掛け、今夜シノンから聞いた話と、それからマルバの苦悩のうめきを思い出していた。ミドリはマルバたちとい
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