■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆自己の非同一性
第五十三話 自分探しの旅
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ていると勘違いしているんじゃねぇか。
同じ身体、同じ姿。しかしそれはミズキの幻影だった。違う、君は死んだ。だからこそ僕は苦しんでいるんだ。マルバが顔を再び顔を背けると、二つの幻影が重なった。マルバは頭を抱えた。
「もう、やめてくれ……」
その苦しげなうめきに反応するものはいなかった。ここに集まるものたちは皆心に深い傷を負っていて、突然叫びだしたりすることはよくあることだからだ。マルバが頭を抱えて動かなくなると、マルバのうめき声に呼応するかのように誰かが鋭く叫んだ。それは何か意味のある言葉のように聞こえたが、声を発した本人さえその叫び声に意味があるとは思っていなかった。その後は誰のものとも知れないすすり泣きやうめき声が時折聞こえてくるが、意味のある言葉を発するものはいなかった。
かつん、かつん……一人の足音が近づいてきて、マルバのすぐ横で止まった。足音の主がマルバの肩をそっと抱くと、マルバは彼女の胸に顔を埋め、声を殺して泣いた。何故泣いているのか自分でもよくわからなかったが、なかなか涙が止まらなかった。硬く冷たいプレートの感覚とは裏腹に、彼は自分の心が少しづつ温まるのを感じた。
しばらくして落ち着いてきた彼がようやく顔をあげると、シリカが目線で大丈夫ですかと尋ねてきた。マルバはきまりが悪そうに頷くと、彼女は一度マルバから目を離し、ミズキへと手を合わせた。マルバも彼女に倣いもう一度儀礼的にミズキへと祈りを捧げると、彼女と一緒に階段を登り、ギルドハウスへと帰っていった。
その場に残った二、三人のプレイヤーたちもしばらくするとぽつりぽつりと帰ってゆき、その場には誰も残っていないように思われた。夜になり、すでに訪れる人もいないような時間帯になってから――ひとつの足音が響いた。その人物は部屋の中心部に立つとおもむろにあたりを見回した。まるでそこに誰かが居ることを知っているかのように。部屋の中心部から死角となっている場所のひとつに向かって、彼女は声をかけた。
「そこに居るんでしょう? ――ミドリ」
物陰から一人の人物が立ち上がった。金属鎧と大盾のシルエットが浮かび上がる。ばさっと音を立てて翼を広げた鷹が、地面から飛び立ちその人物の肩にとまった。その勢いに押され、シルエットが軽く傾いだ。
「あんたなら、ここに居ると思ったわ」
彼女はミドリに歩み寄ったが、ミドリは立ち上がったきり微動だにしない。しかしミドリからは拒絶の意思は感じ取れなかったため、彼女はミドリの横に立ち、壁に身を預けた。
「……何をしに来たんだ、シノン」
ミドリは憔悴した様子で、ただ一言訊いた。シノンは肩をすくめた。
「あんたの様子を見に来たのよ。何度もメッセージ送ったのに、あんた、全部無視してるでしょ。……文句言おうと思って来たけど、そんな気も失せたわ。随分疲
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