■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆自己の非同一性
第五十三話 自分探しの旅
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「ミドリ、またため息ついてる」
サチに指摘され、ミドリは自分がため息をついていたことに初めて気づいた。苦笑して何でもないと言うと、彼はおもむろに立ち上がり、仲間たちに一声かけてギルドハウスを後にした。ミドリは最近、このように行き先は告げないままふらりと一人で出かけることが増え、サチたちは心配していた。尤も、それは他の皆も同じ。ササマルは今日もギルドハウスを空けている。マルバは立ち上がり、ササマルを迎えにいつもの場所へと向かう。
七十五層へと繋がるボス部屋の扉は未だに開かれることはない。それでもマルバたちがこの七十五層ボス部屋へと時折足を運んでしまう訳は、ここにかつての仲間の魂が欠片でも残っているような気がするから……いや、残っていて欲しいと望むからだ。SAOに彼らとの繋がりがある地が仮に残っているとするなら、ここ以外には考えられなかった。
石畳にマルバの足音が反響した。ボス部屋には数人のプレイヤーたちがただずみ、祈りを捧げていた。ササマルはダッカーたちが命を落としたその場所に跪き、微動だにしない。マルバがササマルの横に跪き、手を合わせると、ササマルはようやく顔を上げた。
「……あの日が、昨日のことのように感じるんだ。もう何週間も経ったっていうのに」
マルバはゆっくりと頷いた。彼もまた、この場で仲間を失っている。未だに悲劇があったあの日のことを夢に見るのだ。帰ろう、とマルバが呟くと、ササマルは立ち上がった。その背に拒絶の色を感じとったマルバは、彼が一人で出て行くのを見送ると、部屋の中央、ちょうどミズキがその死の瞬間立っていた場所に跪いた。先ほどと同様に、彼はミズキの英霊へと祈りを捧げた。
ミドリと共に暮らし、共に戦うなかで、マルバはどうしてもミズキの姿をミドリに重ね合わせずにはいられなかった。ミドリがミズキとは違う人間だと認識しているからこそ、ミドリにミズキの姿を見る度に悲しみが彼を襲った。ミズキと共に過ごした日々を過去のことと見なせるようになるには、まだまだ長い年月が必要なようであった。
――或いは――
その先を考えるのはやめよう、そう思ったマルバは首を強く振り、負の方向へと流されようとする思考を引き戻した。やめよう、ミドリと一緒に居ることが悪影響を及ぼしているなんて考えることは。彼はミズキの身体を継ぐ仲間だ。彼はこれ以上仲間を失うことは避けたかった。
――俺のことを、ミズキの残影だと思っているのか。
不意に、ミドリの幻がマルバに語りかけてきた。違う、そうじゃない。マルバは首を振って否定したが、ミドリの幻がこのように問いかけてくるこの状況こそが、マルバがミドリをミズキと切り離して考えられない証拠でもあった。
顔を背けた先で、もう一人の幻影が話しかけてきた。
――おめぇは、俺がまだこの世に存在し
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